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アオキ20

「起きろ、アオキ」 ヒタヒタと頬を叩かれてアオキはふっと目を覚ました。 目の前には蜂巣の天井を背景にした男ぶりの良い紅鳶の顔があり、思わず心臓が跳ねてしまう。 しかしその眉間には深い溝が刻まれていて、彼があまり機嫌の良い状態ではない事を表していた。 アオキはハッとして身体を起こす。 しかしすぐに下腹部を襲う鈍い痛みに顔を顰めた。 腰から下にかけて全く力が入らず、アオキは再びベッドに倒れ込んでしまう。 「派手にヤられたからな。流石に動けないだろ」 紅鳶の言葉にアオキはそれまでの事を思い出し た。 一週間に一度の経過報告中、楼主の命令で紅鳶から翁面の男衆に変わり散々犯されたのだ。 あんなに鈍かったアオキの肉体は翁面の性技にも感じていた。 翁の剛直で抉られるたび、我慢できない快感が込み上げてきて最後の方は自ら強請り腰を振っていた気がする。 そんな姿を楼主をはじめ、紅鳶にも全て見られていたのかと思うと今更ながら羞恥が込み上げてきた。 紅鳶にも散々恥ずかしい事はされてきたのだが、それは彼が再教育の指導者であり、初めて快楽を教えてくれた相手だからアオキも素直に身体を開けていた。 しかし、紅鳶以外の人間に蹂躙されている場面を見られるというのは恥辱以外何ものでもない。 今更こんな気持ちになるのはおかしいのかもしれないが、できれば紅鳶の目の前では犯されたくなかった。 「再教育は明日で終わる」 唐突に告げられて俯いていたアオキは顔を上げた。 「楼主からの命令だ。お前は明日のテストでしずい邸に戻れる」 「そう、ですか」 いつかそんな日が来るだろうとは思っていた。 いつまでもゆうずい邸一の稼ぎ頭を落ちこぼれの為に拘束するなんて楼主が許さないはずだ。 けれどアオキにとってその言葉は思いの外突き刺さった。 それだけじゃない。 突き刺さった言葉が胸を抉ってくる。 どうしてこんなに胸が痛むんだろう。 「俺なんかのために、紅鳶様の手を煩わせてしまって申し訳ございませんでした」 自分でも理解できない胸の痛みを隠すように、アオキは頭を下げた。 「お前はもう落ちこぼれじゃない。しずい邸に戻ってもやっていける」 くしゃくしゃと頭を撫でられて、今度は喉の奥が詰まったようになり目頭が熱くなってくる。 どうしてこんなに泣きたくなってしまうんだろう。 「明日が終われば、もうお会いする事はないんですよね…」 込み上げてくるものを必死で飲み込みながらアオキは口元に笑みを浮かべた。 何とかこの感情を抑え込まないと、紅鳶に不審がられてしまう。 「あぁ、そうだな」 頭を撫でていた紅鳶の手がアオキの頬に滑り降りてくると、顎を捉えられ上向きにされた。 凛々しい眼差しに見つめられて、アオキは泣きたいような叫び出したいような気持ちになった。 もっと一緒にいたい。 もっと触れてほしい。 離れたくない。 沸き上がる得体の知れない欲求に頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。 「明日の月白は骨の折れる相手だ。今日はゆっくり休め」 紅鳶はふっと目を逸らすと、アオキに背を向けベッドから離れようとする。 明日が終わればこの人に会う事は二度とない。 ゆうずい邸の男娼としずい邸の男娼が一緒にいる事は本来ならご法度なのだ。 きっともう二度と彼に触れる事も触れられる事もできなくなる。 そう思うといてもたってもいられなくなり、気がつくと紅鳶の背中に縋っていた。 鳶柄の襦袢を掴み、広い背中に顔を寄せると紅鳶の体温が伝わり肉体の芯がずくりと疼く。 「どうした」 紅鳶が少し驚いた表情で振り返ってくる。 「紅鳶様、お願いが…」 アオキはそう言うやいなや、自ら着物の帯を解いた。 はらりと着物がはだけ、紅鳶の前に裸体が晒される。 紅鳶の目が瞠目するのがわかった。 自分から誘うなんて生まれて初めてで羞恥でどうにかなってしまいそうだ。 けれど、これで最後なのだと思うともう止められなかった。 彼の形やぬくもりを、全身で感じたい。 どんな些細な事でも身体に刻みつけておきたかった。 着物を肩から落とすと、昼間の明るい気配のする部屋に甘くしっとりとした空気が流れ込む。 アオキは震える唇を噛みしめるとそっと瞳を伏せた。 「最後にもう一度、ご指導お願いします」

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