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アオキ22
心の余裕などないはずだった。
金を手に入れ、たった一人の家族さえ守れればそれでよかった。
それなのに、この道端に咲く小さな花のようなアオキはいつの間にか紅鳶の胸の内に入り込み、そこにしっかりと根付いてしまっている。
そんな心の隙間などがまだあったのか、と正直自分でも驚いた。
しかしそんな事はこの淫花廓においても紅鳶自身にとっても、あってはいけない事だ。
よりによってしずい邸の男娼に、なんて…。
「紅鳶様…」
アオキが伺うようにこちらを見上げてきた。
紅鳶と視線が絡むと、今度は恥ずかしげに瞳を伏せる。
何か得体の知れないものが込み上げてきて、思わず視線を逸らしてしまった。
しかし目元を上気させ色香に染まるアオキの姿を視界の隅に捉えてしまい、激情はますます煽られる。
おかしい。
ゆうずい邸の男娼は少なからずとも自らの性のコントロールくらいはできるよう鍛えられている。
紅鳶やそれに続く人気男娼の殆どが成せる技だ。
それなのに、今日は身体の反応を止められない。
あの身体を押し倒して、直ぐにでも捩じ込んで中を思う様突き上げたい、強かに欲を吐き出して自分のものだという印を残してやりたい。
そんな雄としての本能がむくむくと湧き上がってくるのだ。
だめだ。
これはあくまで再教育であって、個人の欲望をぶつけていいはずがない。
それにこんな感情万が一にも周りに…楼主に知られてしまったら、それこそ兄を救えなくなる。
欲情を必死に抑えつけながら、紅鳶は深く息を吐き呼吸を整えた。
「だめだ、大人しく休んでろ」
吐き捨てるように言うとアオキの身体がピクリと震える。
遇らう術は学んでいるはずなのに気の利いた断り方ができなかった自分に歯痒さを感じた。
しかしアオキは思いのほかハッキリと撥ねつけてきた。
「嫌です」
そう言うと紅鳶の身体を押し倒し、のそりとのしかかってくる。
不意打ちをくらい、ベッドに背中をつかされた紅鳶はハッとして慌てた。
「だめだと言ってるだろ、離れろ!」
「紅鳶様はそのままで構いません、俺が勝手にしますので」
アオキはそう言うと、紅鳶の制止も無視して襦袢を寛げはじめた。
足の間に陣取ったアオキは既に半勃ちになった紅鳶のものを愛おしげに見つめると、躊躇うことなく口に含む。
「やめろアオキ…っ」
珍しく切羽詰まったような自分の声に自分で狼狽えてしまった。
しかし、どんなに引き剥がそうとしてもアオキはそこから離れようとしない。
括れた溝に舌を這わせ、亀頭を唇で挟み、ジュルジュルと吸い上げては快楽のツボを刺激してくる。
時折こちらの表情を伺うように見上げてくる表情がなんとも扇情的で、紅鳶はあっという間にアオキの口内に欲を吐き出してしまった。
口淫の技量はまだまだ甘く拙いものなのに、こんなに早く煽られてしまうなんて自分でも何が起こっているのか理解ができず困惑してしまう。
アオキは口元に手の平をもっていくと、そこに紅鳶の吐精したものを吐き出した。
ドロリとした白濁が濡れた唇から零れ落ち、アオキの手の平を淫猥に汚す。
アオキは唾液と混ざった半濁りのそれを、自身の淫靡な穴に塗りつけはじめた。
ぬちゅぐちゅと音を立てて、淫らな襞を押し拡げる指先が慎ましげな孔に吸い込まれては姿を見せる。
その自慰のようなアオキの行為に、いつのまにか制止も忘れて見惚れてしまっていた。
「はあ…、はぁ、紅鳶様…紅鳶様っ…」
顔を赤く染め紅鳶の名前を呼びながら、自ら後孔を解していくその卑猥な姿は押し留めていた理性を崩壊させるのに十分だった。
「くそ…どうなっても知らないぞ」
紅鳶はアオキを押し倒すと腰を抱え上げた。
既に濡れそぼった陰茎からはとめどなく蜜が溢れ、その下にある可憐な蕾までぬらぬらと湿らせている。
紅鳶は散々煽られてはち切れんばかりにいきり勃ったものをそこに押しつけると、一気に貫いた。
「ひっ……あぁあぁあっ!!」
肋を浮き立たせて、思い切りのけ反ったアオキの中がヌグヌグと波打つのがわかった。
この再教育ですっかりドライオーガズムを覚えたアオキの身体は、挿入だけの刺激で達することができるようになっている。
射精を伴わない絶頂に達しているところを構わず突き上げると、再び中がビクビクと痙攣した。
きっと立て続けの快楽にイきっぱなしになっているのだろう。
アオキの身体は抱き心地が良い。
それは単純に具合いがいいというだけではない。
声や肌の質、視線や表情の一つ一つが美しい。
不思議な清らかさと、一度でも見れば人を惹きつけるアオキの魅力は身体を重ねれば重ねるほど研ぎ澄まされていっている。
この身体ならきっとしずい邸に戻ってもやっていける、努力すれば一番手にだってなれる紅鳶はそう確信していた。
けれどアオキが成長すればするほど得体のしれない苛立ちと焦りが募っていく。
この矛盾と葛藤は何だ。
「紅鳶様っ……っあ、あぁっ…き、気持ちい…っですか?」
好き勝手に揺さぶられ、快楽の涙で濡れたアオキの瞳と視線が交わる。
このまま永遠に腕に閉じ籠められたらどんなにいいか…
そんな考えが頭に浮かんでは消えていった。
「………ああ」
紅鳶は囁くように返事をすると、涙に濡れたアオキの瞼に唇を落とした。
「……良かった」
苦悶の表情を浮かべながらも、アオキの表情がふっと綻ぶ。
そんな表情にも心を奪われてしまいそうで、紅鳶は眉を寄せると荒く息を吐く唇を乱暴に塞いで舌を捩じ込んだ。
「……っ、……っふ、んんっ」
アオキは乱暴な口づけにも従順に応えようと必死に舌を絡みつかせてくる。
吐息まで奪いそうなほど激しく貪り、角度を変えては何度も唇を合わせる。
こらえきれなくなった紅鳶は、アオキの最奥を抉るように突き上げた。
「んっ、んっ、んん…!!」
深く腰を沈めたまま揺さぶると、アオキが苦しげに呻く。
そんな苦悶の表情さえ綺麗だ。
そして誰にも見せたくないという気持ちになる。
逃げるな、といわんばかりに身体を押さえ付け、そのまま容赦無く抽送を繰り返した。
「ん…っんんんんっ…んん!!!!」
ビクビクと痙攣を繰り返し媚肉が紅鳶の男根を食い締める。
直腸の粘膜に熱い欲望をぶちまけると、アオキの屹立からも白い蜜が噴き上がった。
涙に濡れ法悦の残滓にぐったりとする身体をうつ伏せにすると、今度はバックから挿入の体勢をとらせる。
すると、アオキが焦ったように振り向いてきた。
「ん…待って、待って!!」
「…ダメだ、待てない」
抑えることができない欲求、渇望、嫉妬。
きっともう自分はどこかで気づいている。
これが何であるか。
そしてそれが全く不毛なものであることも。
紅鳶は苦々しく唇を噛み締めるとそれらの全てをぶつけるようにアオキの身体に捩じ込んだのだった。
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