24 / 52

アオキ23

月白(げっぱく)という男は、雪白の長髪を揺らめかせた美しい男娼だった。 涼しげな切れ長の瞳、直線的な鋭い鼻梁、薄い唇、そのどれもが完璧なバランスで線の細い輪郭の中に位置づいている。 アンニュイな雰囲気を纏わせた月白は、男らしく鍛え抜かれた肉体を持つ紅鳶とはまた違うタイプの男娼にみえた。 しかし、きっとこの人目を惹く容姿や品のある佇まいからして人気男娼である事は間違いないだろう。 月白の美しさに目を奪われていると、薄い唇がアオキに向かって微笑をたたえてくる。 物腰柔らかに見え、アオキは少しホッとした。 月白の話をするたびに紅鳶が口を濁していたので、どんな横暴な大男が来るのだろうと内心ハラハラしていたからだ。 「アオキと申します。よろしくお願い致します」 アオキが褥に手をつき口上を述べるとそれまで柔らかだった切れ長の眼差しが、急に鋭くなった。 「精の染みついた匂いをさせてるね」 「え?」 瞠目していると、線の薄い顔がアオキの耳元へやって来てすん、と鼻を鳴らす。 「昨夜は随分お盛んだったのかな?」 アオキの反応を伺うような冷たい流し目と視線が絡む。 数時間前まで熱い情交を交わしていたことを思い出し、アオキは無意識に首元を抑えていた。 顔がかぁっと熱くなり、みるみる朱に染まっていくのがわかる。 昨夜はこれまでにないくらい荒々しく激しいセックスだった。 紅鳶はいつも正確性の高いセックスをする。 容赦はないがきちんとこちらの限界を見極めてくれるセックスの仕方だ。 しかし、昨夜の彼は違った。 冷静で鷹揚な紅鳶が息を弾ませ、切羽詰まったような声を出してアオキをめちゃくちゃに抱いた。 気のせいかもしれないが、性技を教えるというより一人の人間として求められているような、そんな気になるほど情熱的で身体に染みつくようなセックスだった。 達してもなお突き上げられて、逃げうつ腰を押さえつけられて中にも、外にも、口の中にも何度もその精を叩きつけられたのだ。 しかし、決して嫌ではなかった。 それはアオキ自身も望んだ事だからだ。 二度と会えないのなら、せめて身体が忘れないように細胞の一つ一つに紅鳶という存在を記憶させておきたかった。 そうすれば、きっとこの胸の内に芽生えている小さな蕾を断ち切る事ができるような気がしたからだ。 「後ろが見えるように自分で足を開いて。動くんじゃないよ」 月白に命じられ、アオキは着物の上前を開き足を開いた。 膝裏から腕を回し、後孔を暴くように尻肉を割り開いてみせる。 羞恥と屈辱に唇を噛みながら、アオキはぎゅっと目を瞑った。 月白に見られているというのも恥ずかしいのだが、その向こうには楼主と紅鳶がいる。 再教育中、幾度となく恥ずかしい姿を見られてはいたがこんな風に他人に辱しめを受けている姿を紅鳶に見られるのはやはり辛い。 覗き込むような気配とともに冷たい指先が入り口に触れ、アオキはびくりとして身体を強張らせた。 そこはまだ何かが入っているかのような違和感と、ヒリヒリとした疼痛が残っている。 「赤い肉が丸見えじゃないか。襞もこんなに捲れ上がって。俺の相手をすると知っておきながらこんな風になるまで抱くなんて、彼はよっぽど君にご執心とみえる」 揶揄うような月白の言葉に頭が焼けつくように熱くなる。 するとすぐに叱責が飛んできた。 「黙れ」 月白はくすくすと笑うと、今度はアオキの着物の襟元を裂くようにして開いた。 「じゃあこれはなんだ?一番手のお前ならがご法度なのは知ってるだろう?それとも俺に対する嫌がらせかな?」 首筋にある傷口を撫でられてアオキは痛みに呻く。 そこには、昨夜紅鳶につけられた噛み跡がくっきりと残っていた。 男娼に傷をつける事、特にしずい邸の娼妓の肌に傷をつける事は禁止されている。 他の客を煽る引き金になったり、それがきっかけで娼妓が命の危険に晒されたりするからだ。 あまりの激しい情交に最後の方は意識が飛びかけていたため、いつ噛みつかれたのか全く気づかなかったのだが今朝方シャワーを浴びている時に気づいた時は歓喜に震えた。 紅鳶が何を思ってアオキの首筋に歯を立てたのかわからないが、しばらく彼のつけた跡を身体に残せる事が嬉しくてたまらなかったのだ。 「なかなか面白い事をしてくれるね。まぁ、退屈凌ぎには丁度いいか」 生温かいものが噛み跡に触れ、アオキは思わず目を開いた。 月白が酷薄な笑みを浮かべながら、アオキはの肌に残る紅鳶の痕跡を舌で舐めあげている。 反射的に逃れようと身体を捩らせると、強烈な力でねじ伏せられた。 儚げな雰囲気の月白の容姿から想像できないほどの力の強さだ。 「さぁ、俺を楽しませてくれよ」 月白はそう言うと酷く下卑た顔でアオキを見下ろしたのだった。

ともだちにシェアしよう!