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アオキ28

身請(みう)けとは、男娼の身の代金(前借り金)を支払い、約束の年季があけるまえに、稼業をやめさせることである。 身請け後、見世からは解放されるわけだが、実際完全に自由とはならず大抵その身は買い取った客のものとなり生涯仕える者が多い。 つまり、中丸はアオキの身をこの淫花廓から買い取りたいと申し出ているのだ。 アオキは戸惑った。 数ヶ月前までは落ちこぼれで底辺にいた自分にまさか身請けの話が飛び込んでくるとは思ってもみなかったからだ。 「あの…」 何と答えていいかわからず助けを求めるように目の前の楼主を見ると、男は眉間の皺をそのままにアオキの隣に座る中丸に目を向けた。 「何度も言いますがこいつは最近開花したばかりのまだまだヒヨッコ娼妓でして。借金に加え、身の代金も含めると…中丸様には大変なご負担になるかと」 いつもの粗野な言葉使いから一変、楼主は殊更丁寧な口調で中丸に意見を述べた。 しかし、中丸は楼主を真っ直ぐに見据えるときっぱりと反論してくる。 「だから、それはいくらでもいいと何度も申し上げているんですよ。俺はこのアオキが欲しい。いくら金額が跳ね上がってもどんな事をしても手に入れたい」 中丸の逞しい腕が伸びてきてアオキの肩を引き寄せた。 中丸を見上げると、男は真摯な眼差しでアオキを見つめている。 日に焼けた健康的な肌によく似合う精悍な顔つき。 「ここから出て俺と来い。俺が、必ず幸せにする」 その力強い言葉と覚悟と決意に満ちた男の表情にアオキは思わずドキッとしてしまった。 この男は本気なのだ。 本気でアオキを身請けしたいと言っているのだ。 でもやっぱり… アオキは中丸の腕の中で、紅鳶の姿を思い出していた。 眼差しが声が体温が仕草が、今でも脳裏に焼きついて離れない。 叶うことのない恋。 一生遂げることのできない想いだとわかっているのに、アオキの心を捕らえて離さない。 この腕が紅鳶だったらどんなにいいか。 罪悪感を感じながらもそんな事を考えてしまう。 自分はどこまで罰当たりな奴なんだろう。 「とにかく、こちらとしてもすぐに、というわけにはいかないんですよ中丸様」 軽く咳払いをして楼主がアオキを見据えながらそう言った。 こちらを洞察するような眼差しにアオキは思わず目を逸らす。 中丸の身請けを快諾しなかったせいで、紅鳶に対する気持ちを知られてしまったかもしれない。 そんな気がした。 「とりあえず今日のところは引きさがろう、また来る。その時は必ずお前を連れて帰るからな」 中丸はそう言うと、アオキの髪に口づけて部屋を出て行った。

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