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アオキ29
「あの…」
中丸を見送った後、刻み煙草を丸めはじめた楼主にアオキは恐る恐る訊ねた。
「俺は…どうしたらいいんでしょうか」
男は相変わらず表情一つ変えずに淡々と告げてきた。
「好きにしろ。ああは言ったが身請けを受けるかどうかまで口出しするつもりはねぇ。もちろん身請け後のてめぇの人生にもな」
当然の答えだと思った。
淫花廓の経営者として不利益にならなければ、男娼の身がどうなろうと関係ない。
どこまでいってもこの男にとって男娼は商品以外なにものでもない。
そういうことだ。
しかしアオキはもうそれに対して反論したり反抗したりするつもりはなかった。
楼主は経営者として当たり前のことをしている、それだけなのだ。
雁首に丸めた刻み煙草を詰める楼主の手元をじっと見つめながらアオキはふと呟いた。
「あの…紅鳶様はどうされてますか」
「なぜ今紅鳶の事を聞く?」
楼主の手元が一瞬止まり眉が不機嫌に寄せられる。
自分でもよくわからなかった。
身請けをされるかどうかというこんな時にまで紅鳶のことが気がかりなんて…
けれどもう、躊躇いなど必要ないように感じ始めていた。
もしもアオキが身請けを選んだら、紅鳶はなんと言うだろうか。
「それは…」
アオキは少しの間逡巡すると答えた。
「お加減が悪いような事を小耳に挟んだので…少し気になって…」
「ちっ…般若め、余計な事を」
楼主は眉を寄せると舌打ちをする。
「お前がゆうずい邸の事に首をつっこむのはご法度だ。いい加減弁 えろ」
「ご病気ではないんですか?」
食い下がるアオキを鬱陶しげに睨んで、楼主は煙管に火を灯す。
帰れと言わんばかりに紫煙を吹きかけられたが、そんなことで質問を取り消すつもりも引き下がるつもりもなかった。
突然、ガタガタと荒々しい音が聞こえてきてノックもなしに部屋の扉が開け放たれる。
下駄を踏み鳴らして入ってきたのは、先ほどアオキをここへ連れてきた般若と怪士だった。
「おい、なんでそいつを連れてきた」
「どうもこうもないよ。この男がゆうずい邸で暴れ回ってるからなんとかしてくれって青藍に頼まれて怪士が止めてここまで引きずってきてやったんじゃないか」
瞠目するアオキと楼主の目の前に、怪士の手から男が投げ捨てられる。
ぷんと酒の匂いが漂ってきて男が相当飲んでいる事がわかった。
生気のない表情で項垂れる男をまじまじと見つめていたアオキの目が次第に見開かれていく。
「紅…鳶様…?」
そこにいたのはアオキの知る凛とした男っぷりのいい紅鳶ではなく、無精髭に髪を乱し、くたびれたなりをした男の姿だった。
アオキの反応を見て、楼主が再び舌打ちをする。
「そいつを連れてとっとと出て行け」
厳しい口調で命じるが、般若は肩をすくめると妖しくせせら笑った。
「いい機会じゃないか。こんなだらしのない男にいつまでも執着するより、羽振りのいい金持ちの男に身請けされて幸せにしてもらった方がマシだって、その子に教えてやればいいよ」
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