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第12話

この髭オヤジは本当に三月とチューちゃんには甘いんだからと思いながらジト目で帽子屋を見た。 どうせ、あのティーポット型のソファーもロングスリーパーのチューちゃんの為に買ったんでしょう。 私はジェニーちゃんの肩に手を置くと、ジェニーちゃんを帽子屋の方へずいっと押し出す。 頼まれてから時間は経ってしまったが、自分からジェニーちゃんを呼んでおいて何故か一瞬帽子屋がキョトンとした顔になった。 「あ、あぁ…で、ジェニー?いつもの場所に頼むわ」 「はい。帽子屋さん。図柄もいつものでいいんですか?」 「そうだな。あいつまだ行き先決まってないみたいだし、指定がないからいつものでいいぞ」 ジェニーちゃんは帽子屋と普通に話していた。 本当にツンツンなのは私だけなのよねぇ。 2人が男に入れるタトゥーの図柄を話しているのを見ると不思議な気持ちになる。 地下室で調教を受けた子達は腰とお尻の割れ目の間の部分に幾何学模様を入れるのが普通なの。 特に地下室出身の子達の大抵は海外のお得意のペットや、優しいお客様だと愛人になったりするのよ。 その時、奴隷達は普通には歩けないようにしているから見て分かりやすい場所にタトゥーを入れるの。 タトゥーを入れる前の調教期間中に身請け先の募集があるのだけど、その時に行き先が決まるとリクエストで図柄やお客様の名前を入れる方が居るのよね。 だけど、今回は身請け先がまだ居ないからオリジナルの物を入れることで決まりみたい。 「なら下書きするから体制変えなきゃいけませんね」 「そうだな。おい三月、そいつの」 「いぎぃ!無理!そへっ…いひょうはひらなぎぃぃ!」 「ん?帽子屋何か言った~?」 帽子屋が声をかけると、三月は男のアナルに指をねじ込んでいる所だった。 男の断末魔に、三月は楽しそうに微笑んでいる。 男のアナルには三月の手袋をした指が4本がねじ込まれもう少しで三月の手が入ってしまいそうだった。 「あっ、ゆひ!ゆひ曲げるのいやぁぁ!」 「ガチガチの前立腺はっけ~ん。これを潰されるの大好きだよな?」 「んおっ!イクッ!前立腺、おされへてイキまひゅ!いひゅぅぅぅぅ!」 男の腰が面白いほどビクビクと震えたかと思うと握りしめていた掌が力なく開き、そのまま意識を失ったのが分かった。 男はぶしゅぶしゅと潮を盛大に吹いているが、三月は気にした様子が一切ない。 「で、何の話しだっけ?こいつ煩くて聞こえなかったんだけど?」 「もういい。枷外してうつ伏せにしてやれ」 「は~い」 三月は楽しそうに男の拘束を外し、そのままうつ伏せにして寝かせると男はぴくりとも動かない。 その男に近付き様々な機械や器具が乗ったワゴンから紙を取り出すジェニーちゃん。 「こんな感じですか?」 「いい感じじゃない?」 「バラは少し大振りでもいいな」 男の腰に下書きの絵柄が描かれた紙が乗せられる。 タトゥーの絵柄はバラの蔓にバラの花とトランプのマークが散りばめられているデザインだった。 それを見た帽子屋は花のデザインをもう少し大きいものの方がいいのではないかと提案している。 確かにこの男は腰は細いが臀に肉がついておりバラが大きい方が厭らしくていいかもしれないなと思った。 「私もその方がいいと思うわぁ」 「べ、別にダイヤ様の意見なんて聞いてないしっ」 私の言葉に一気に不機嫌そうな声になり、それを聞いていた帽子屋はやれやれといった様子でため息を吐いているが私は気にしないわ。 猫ちゃんみたいで可愛いじゃない。 「なら、少し大きなものに変更してきます」 「あぁそうしてくれ」 ジェニーちゃんは帽子屋に声をかけ薬品庫の方に戻っていく。 新しい図案と転写用の薬品を持ってくるんでしょう。 「ジェニーは本当にお前にだけ面白いほどツンツンしてるな」 「たまにはデレるわよ」 「だろうな…お前があいつの肩に手を置いた瞬間のだらしない顔は見せてやりたいくらいだったぞ」 また帽子屋がため息をつく。 ジェニーちゃんの行動が理解できないんでしょうね。 あれも慣れるとなかなか可愛いのよ。 本物の猫ちゃんみたいでキュンッてするわ。 「あら?そういえば三月が静かね?」 さっきまで男で遊んでいたのにジェニーちゃんが図案の調整をしはじめるとカーテンの奥に消えていったみたい。 「奥で次のプランでも練ってるんだろう」 「そういえば怪しいのが居るんですってね」 「こいつの仲間じゃないか?俺らは仕事が増えると嬉しいけどな」 帽子屋は顎髭を撫でながらニヤニヤとしていた。 確かに最近また不振な動きをする客が審査を受けているらしい。 怪しいお客様はすぐに審査が出ないこともあって、その審査の間に地下に情報が降りてくることがあるのだ。 「お待たせしました。今から転写して筋彫りします」 そんな事を話していると、足早にジェニーちゃんが帰ってくる。 手には先程より花が大きく描かれた紙が握られていた。 それを肌の上にのせ、薬品を塗る。 しばらくするとその図柄が肌の上に転写してされていた。 男が途中で起きて暴れてはいけないので、私は男の足元に、帽子屋は頭の方でジェニーちゃんの作業の様子を見守っていた。 ジェニーちゃんが機械のスイッチを入れると歯科医の歯を削るドリルのようなキィィィィィンという甲高いモーター音が部屋の中に響く。 筋彫りとは絵でいうところの清書にあたるもので、薬品で肌に移した図案を色を使い定着させる作業のことなの。 「すぅ、すぅ、すっ…ふー。ふー」 男の息遣いが寝ているというよりは、気絶したものだとすぐ分かるほど不規則だった。 痛みがあるはずなのだが、男は小刻みに身体が揺れるだけでいっこうに目を覚ます気配がない。 「では色入れをしていきますね」 ジェニーちゃんは帽子屋に言うと、帽子屋はこくんと頷いた。 緑の着色剤を使い蔓を伸ばして行く。 バラは赤ではなく少し薄い色で色を塗っていたかと思うとジェニーちゃんの作業が終ったようで患部に何かを塗っていた。 「やっぱり手際がいいな。あっという間に終ったな」 「ありがとうございます」 「流石ジェニーちゃんね!」 「ちょ!ダイヤさま!」 後片付けをはじめるジェニーちゃんを労う帽子屋と共に後ろから抱き締めてあげると、声は焦っているがまんざらでもないのか抵抗らしい抵抗もしないのでこれでもデレてるみたい。 「綺麗に色も入ったわね。綺麗にできたご褒美にキスしてあげる!」 「え?んっ」 ジェニーちゃんの顎を持ち上げると、薄く開いた唇に舌をねじ込む。 やはり抵抗しないのをいいことに舌を吸い上げる力が抜けたように私にしなだれかかってくる。 「おいおい。ここでするなよ…」 「はっ!何するんですかダイヤ様!嬉しくなんてないんですからね!」 「はいはい。分かってるわよぉ」 帽子屋の言葉に私からさっと離れるジェニーちゃん。 またツンツンに戻っちゃったけど面白いわ。 「また何かあれば呼んでください」 「おー。そうするわ」 帽子屋に挨拶するとジェニーちゃんは急いで準備をして地下室を後にして出ていった。 もう、半分小走りだったのでこっそり笑ってしまった。 「お前の部下は本当に個性的だな」 「そうね。あなたもその気があるなら抱いてあげるわよ」 「いや遠慮しとく…」 私は帽子屋に冗談を言って地下室を後にした。 私だって本心を言えば、あんな可愛げのない髭面の元同僚のおっさんなんてごめんだわ。 ロッカーに戻ると既にジェニーちゃんの姿は無かった。 私はもう笑いが堪えきれず一人なのに声を出してくすくすと笑ってしまった。 こんなことはしょっちゅうなのよね。 本当は相手をしてほしいのに、素直になれないジェニーちゃんにちょっかいを出すと姿を消してしまうんだけど。 必ず何処かで待ってるのよね。 本当に猫ちゃんみたいだわ。 「あら。こんな所に居たの?」 「・・・」 着替えを終えて、店を出ようと地上に上がると従業員入り口の外で煙草をふかしていた。 もう女の子が吸うような可愛いパッケージの煙草が腕のタトゥーと不釣り合いでまた笑ってしまう。 「・・・」 「そんな顔で見たって駄目よ。ちゃんとお口に出してごらんなさい」 ジェニーちゃんは笑っている私を恨めしそうな顔で見ているけど、私は自分に素直な子には弱いの。 ちょっと意地悪して素直になるなら、いくらでもそうするわ。 「ダイヤ様…ご褒美…ください」 「いいわよぉ?貴方のパートナーを呼んでもいいわよ?」 あら、凄く嬉しそうにしちゃって。 ジェニーちゃんにはきちんとパートナーが居るんだけど、この子ったらそのパートナーを私に調教させたのよ。 ツンデレも拗らせると大変よねぇ。 「今、電話します」 「そうしてちょうだい。あの子ならすぐ飛んで来るでしょう」 この子のパートナーは背も高いかなりのイケメンさんなの。 なかなか素直になれないジェニーちゃんに従順にしたがっている犬みたいな子ね。 猫と犬でぴったりかもしれないわね。 「ダイヤ様お久しぶりです!」 「あなたも相変わらずねぇ」 5分もしないうちにワンちゃんがやって来た。 何処かで、ジェニーちゃんの仕事が終わるのを待っていたんでしょう。 自分もジェニーちゃんと同じタトゥースタジオのスタッフなのに、お店をほったらかしにして大丈夫なのかしら。 まぁ、アリスグループの傘下のお店だから毎日仕事があるわけでもないし大きなお世話かもね。 「さぁ…ジェニーちゃんのご褒美の時間よ」 「は、い…」 あらあら、すっかり二人とも溶けきった顔しちゃってかわいいったらないわ。 これがあるから調教師ってやめられないのよね。

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