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第11話

私は思わずあくびが出てしまうのを我慢するために口許をハンカチで押さえた。 群衆が興奮すると誰にも止められないのは集団心理学の観点からも証明されている。 「たくさん楽しんでいってね~」 ユーノちゃんが合図をすると、一瞬音楽が止んだ。 ユーノちゃんは机の上で大きく前屈して孔を拡げると周りのお客を挑発するみたいに少し震える声で言い放った。 すぐに、また大音量の音楽が流れはじめる。 「ふーん」 私は掌に顎を乗せてボーイの動きを観察する。 ユーノちゃんにああやって号令をかけさせる事で、客のボルテージは上がっていく。 只でさえユーノちゃんはこの店のナンバーワンという立場ということでこの店に来る客のステータスの塊だ。 正に鶴の一声といったところだろうか。 すぐにボーイ達が働き蟻の様に忙しなく動き始めた。 ボーイの様子を見ていると、小さな篭に入ったコンドームとローションのボトルを運んでいる。 「あこぎよねぇ」 私はふふふと小さく笑う。 ボーイが運んでいるコンドームはこの店ではチップとして使われている。 コンドーム1つが千円という価格設定で、自分が指名したキャストに直接渡す事でキャストの成績になるのだそうだ。 そのコンドームを2つ買うことで、キャストに挿入する権利が生まれるという仕組みらしい。 1つはキャストが着けて、もうひとつを客がつける。 個数が増える毎にできる事の幅が広がっていくのだそうだ。 私はバックヤードで見たお徳用のコンドームの箱を思い出した。 1つの単価など精々1桁位だろう。 それを10倍近い金額で客に売り付けているなんて何てあこぎなのだろうか。 しかし、このシステムが客を燃え上がらせるのは分からないでもない。 金さえ払えば体の良い肉穴を使うことができて、尚且つ自己顕示欲まで満たせるのだから。 「さぁ。空気も悪くなってきた事だし…帰りましょうかね」 私は手すりから身体を起こして、扉の方へ向かう。 中央ではユーノちゃんがお客の膝に乗せられ激しく揺さぶられていた。 音楽の合間に大きな喘ぎ声が聞こえるが、これが静かな所だと相当うるさいだろうなとふとどうでも良いことが思い浮かんだ。 背面座位で揺さぶられているユーノちゃんのペニスが大きくプルンプルンと揺れているのや、接合部分までもがはっきりと見えるほど大きく足を広げさせられている。 今日のユーノちゃんのお客様は自己顕示欲がとても強いらしく、ユーノちゃんの顔を固定して他の客にも見える様にしているみたいだった。 客が大きく腰をグラインドさせた事でユーノちゃんの身体がしなる。 「はぁ。仕方がないわねぇ」 ユーノちゃんの方は問題無さそうだが、先程薬を使われたキャストの方を見ると客が居なくなっているのに微動だにしていない。 私は数段の階段を降りて個室に向かった。 個室のカーテンは開いていて、そのまま中に入る。 キャストの口許に耳を近付けると、何とか呼吸はしている様で微かに耳に息がかかった。 私はほっとしつつ脈を測ると、少し早い様だがこれからどうなるかは分からない。 身体は小刻みに震え、痙攣を起こしている。 使った物質によっては体内で別の物質に変化して様態が悪化したりするのだ。 このまま放置しておく訳にはいかないのでこれから検査のために連れて帰る事にする。 ベッドの上のシーツを剥がしてキャストの子を包んでボーイを呼んだ。 ボーイは一瞬嫌そうな顔をしたが、もう一人ボーイを呼んで何処かに運んで行った。 多分従業員用の出入口だろう。 私も足早に部屋を出ようとボーイが消えていった扉へ向かった。 振り返ってユーノちゃんの方を見ると、客に乳首を弾かれながら指で自分の孔を抜き差ししているところだった。 顔はにんまりと満足そうだったので何よりだ。 「下まで運んでちょうだい!」 シーツの両端を持ったボーイと共に従業員用のエレベーターに乗って、倶楽部の車にキャストの子を運んだ。 車にキャストの子を乗せさせ、店長に伝えておくように言ってそのまま車を出して貰った。 揺れる車の中でキャストの子の採血をおこなう。 「予定通り、クラブちゃんのラボまで行ってちょうだい」 「かしこまりました」 運転手に行き先を告げると、車は目的地に向かうためにスピードをあげた。 景色はどんどん後ろに流れて行き、タブレットとにらめっこしていた間に私が目指していたビル郡が見えてくる。 少し遠くに守衛の居るゲートが見えてきた。 車はゲートで止まることなく進んでいくし、ゲートも勝手に開く。 「緊急処置室に運んでちょうだい!」 「ダイヤ様!準備はできています」 「ありがとう。これは至急に、鞄の中の献体は追々検査してちょうだい」 「はい!」 とある建物の前に車が止まった。 建物の入口にはストレッチャーを準備した人が待っている。 私は車のドアを内側から開けて患者をストレッチャーに乗せるのを見届けながら自分も車から降りつつ指示を飛ばす。 まずは先程採血した物を渡し、鞄もそのまま別のスタッフに渡した。 急いでバイタルや血圧などを測る。 「こんな時間までお仕事ですか?」 「うふふ。クラブちゃんには言われたくない言葉ね」 私が処置室で点滴の調節をしていると、クラブちゃんがやってきた。 患者の顔を覗きこみつつ笑っている。 先にタブレットで情報を共有しておいたので準備は万全だった。 「珍しいですね。ダイヤさんが人助けなんて…」 「ちょっとクラブちゃんのお友達の“シマ”で悪い子ちゃんを見つけたから献体を持ってくるついでに報告しに来たのに、失礼ね」 「それは大変失礼しました」 クラブちゃんは全く悪びれる様子もないくせに、ペコリと頭をさげた。 私は怒る素振りを見せつつ処置を終えて手近な椅子に腰をおろす。 血液検査にはもうしばらく時間がかかるだろう。 私はもう本日何度目か分からないため息をついた。 「お疲れ様です」 「本当にね…」 今日は色々ありすぎてぐっすり眠れそうだと思いながら、患者のバイタル音を聞いていた。 超特急で検査をしたのか、血液検査は20分程で一般検査が終わってデータが出てきて既に手元にある。 これから詳しい薬物検査もすることだろう。 「この患者はどうするんですか?」 「考えて無かったわ。どうしようかしら?」 「それなら、私に譲ってくれませんか?」 「あら。折角私がここまで運んで来たのに“壊さないで”ちょうだいよ」 「そんな事はしませんよ」 クラブちゃんが含み笑いをしたが、わたしは呆れつつ点滴のパックを見た。 点滴が終われば少しは容態が良くなるだろう。 ユーノちゃんのお店の事を考えると、ここに居るキャストが1人減ってもユーノちゃんが居れば店長はなにも言わないだろう事が容易に想像できた。 あの店長は従業員の金をピンはねしてるのを見たことがあるし、店一番である売れっ子のユーノちゃんはあまり給料などに頓着していないのでユーノちゃんが居なくならなければあの店長は痛くも痒くもないだろう。 あの店のオーナーは見たことがないのでどういった人物かは知らないが、そのうちあの店も傾くだろう。 「今日はお店には行かないのですか?」 「癒されたいけど…これは無理そうね」 私はベットの上で眠る人物を見ながらやれやれと足を組んだ。 クラブちゃんと話している間に、流石最先端の器具が揃っている施設だけあって検査の結果が出てきて血中の薬物反応が明らかになった。 それを見たクラブちゃんが見たこともないような笑顔を顔に貼りつけていたので、私の仕事は終わった様だ。 それから何事もなく2週間ほど経ったある日。 ジェニーちゃんの都合が合うというので、ジェニーちゃんを伴って地下室に向かう事になった。 「別にダイヤ様が付いてくる必要なんかなかったし」 「そんな事言わないで、一緒にいきましょうよ。帽子屋もあなたを連れてこいって言ってたことだし」 「僕は一人でも行ける」 「はいはい」 ジェニーちゃんは他の子には普通なんだけど、何故か私にだけツンツンしててなかなか素直じゃないの。 ちょっと意地悪してみようかしらね。 「ならジェニーちゃんを送り届けたらKちゃんの所でイイコトしてるわ…」 「えっ!」 私の予想外の言葉に、一瞬止まるジェニーちゃん。 本当に分かりやすくて可愛らしい。 「別に…好きにすればいいじゃん」 うっすら目に涙を溜めてそっぽをむいてしまった。 強がっちゃってかわいいけど、あんまり悲しませるのも可哀想ね。 「嘘よ。ちゃんと終わるまで待ってるわ」 「と、当然だよね」 どもっちゃって本当に素直じゃ無いところがまた可愛いって言ったら怒るかしら。 それからしばらくカツンカツンという私のハイヒールの音だけが反響していたんだけど、手に何か触れた感触がしてそちらに目を向ける。 ジェニーちゃんが私の手を握ろうと手を出したり、引っ込めたりしてるのが目に入る。 「ちょっ!」 「いいじゃなぁい。減りはしないわよ」 私の言葉に顔をだらしなく緩めているのをジェニーちゃんは気が付いてないみたい。 ツンデレって言うのも大変なのね。 別に私は皆にキャラ作りしなさいとは一言もいっていないんだけど、どうも皆個性的なのは不思議だわ。 「あっ、あぐぅ!いぎっ、いあぁ」 「あら~。随分拡がっちゃたわね?」 着替えてから奥の部屋に着くと、男がベッドに臀を高く上げうつ伏せの状態で拘束されていた。 アナルには子供の腕ほどはあるのではないかというほど大きなバイブが突き刺さっていた。 「んっ!んひっ、んぐっ、あぁぁぁぁ」 膝と手首が拘束一纏めにされているため、腕を動かす度に足が開いて誘っているようにも見える。 「ダイヤ!おつかれ~」 「だいぶ開発は終ったみたいね?」 「まぁね。楽しいこと沢山したんだ」 「いっ、ひぃぃ」 私の言葉に三月が楽しそうにアナルから飛び出しているバイブを掌で押し込むと、男のペニスからはパシャパシャと水が吹き出した。 潮吹きまで覚えて、かなり身体を弄られたみたいね。 「お!約束通りジェニー連れてきたみたいだな」 「当然じゃない。可愛い部下ですもの」 カーテンの奥から帽子屋が表れ、ジェニーちゃんを視界に捉えると嬉しそうに顎髭に手をのばす。 ちらりと見えたカーテンの奥ではチューちゃんがティーポット型のソファーで枕を抱えて寝ているのが見えた。

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