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第10話

ふと腕時計を見ると、このナイトクラブに来てからかなりの時間が経っていた。 5人目の採血をした辺りで運転手の子には先に帰るように連絡を入れて正解だったと思う。 「やっとね」 バックヤードで採血を終えて着替えても私に声をかけてくる子や、凄く嫌がって腕を中々出さない子。 明らかに体調を崩しているのに出勤している子を帰るように促したりするのにかなりの時間をくってしまった。 私はやっとゴム手袋を外してポリ袋に放り込む。 首を回した後に両肩をぐるりと回した。 コキコキと言う音が肩からしていて私は軽く肩を揉んだ。 タブレットを閉じて鞄に仕舞い、ポリ袋を机から剥がす。 使用済みの注射器などが捨ててあるのでこのゴミは毎回私が持って帰っている。 注射器を拾って薬物の注入などに使われては目も当てられないわ。 「先生オツカレースッ」 「あら。店長…最近の景気はどう?」 「ぼちぼちってところっスかねぇ」 「あら。そんな謙遜して、そんなこと無いでしょぉ?」 後片付けをしていると、ここの店の雇われ店長がやって来た。 相変わらずチャラそうに見せかけているが、これでも中々の食わせ者だったりする。 こんな店の雇われでも店長をしているのだから、一癖無いと勤まらないだろう。 私達が腹の探りあいをしている間に、店がオープンの時間になった。 店内のBGMが微かに聞こえてくる。 「ユーノちゃんに仕事ぶりを見ていって欲しいって“お願い”されちゃったから、こんな時間になっちゃったしお店を覗いていっていいかしら?」 「うちの店と違って、世の中不景気っスからね!どうぞどうぞ」 店長に嫌味を言われるも、私も店長も笑顔を崩さない。 この雇われ店長は私の本当の仕事も、うちの店や倶楽部の事も知らないだろう。 多分、金の無い年寄りオネェの医者もしくはモグリ位にしか思ってないのだろうなとは思う。 所詮は二流の店の雇われ店長だ。 うちの店にとって何の驚異にもならない。 「じゃあこの後迎えが来るから、それから見せてもらうわね」 「どうぞどうぞ」 私はバックヤードから鞄と医療廃棄物の入ったごみ袋を持って出ると、従業員用のエレベーターに乗った。 来た時はお客様用のエレベーターを使ったが、流石にゴミを持ったままお客様用のエレベーターには乗れないわね。 それにしても、あの店長は本当に私の事を下に見ているようだ。 こっちに見向きもせずに手を振っていた。 でも、私はそれくらいで気分を害したりしないわ。 私はハンカチを口許に当てつつエレベーターが止まるのを待った。 「ごめんなさいね」 「いえ。仕事ですから」 ビルの外には迎えの車が待っていた。 運転手は最初の子とは別の子だったけれども、私の言葉への反応はまったく同じだった。 スペードちゃんの教育も行き届いている様で、先程の店長の対応と比べると雲泥の差だわ。 「もう少し中を見ていくから待っていてちょうだい」 「お待ちしております」 手に持っている物を運転手の子に預け、私は踵を返した。 お客様用のエレベーターに乗っても良かったが、時間的にお出迎えされてしまうのも何だか落ち着かないので、もう一度従業員用のエレベーターに乗った。 エレベーターの中はすすけていて、ほんのり異臭がしている。 どうしてもアルコールを出しているお店が多いのでキャストが吐いてしまうなんてザラなのよね。 何でよりによって絨毯貼りにしてるんだろうかと口許にまたハンカチを当てながら思った。 「ユーノちゃんにお願いされたからちょっと見学していくわね」 「あ、はい…」 私はボーイの子に声をかけると、店内を邪魔にならないように移動する。 一般席を通過すると、お店の奥まったところに真っ黒な扉の前に立つ。 扉の前に居たボーイの子が何も言わずに扉を開けてくれたので、私も何も言わずそのまま扉の中に進む。 扉の中は一般席よりかなり広く、重低音の音楽がかなり大音量でかかっている。 入ってすぐの扉の付近は高くなっていて、1段低くなっている部屋の中が見渡せる様になっていた。 ユーノちゃんを探すと薄暗い室内でも一際目立つ少し高くなっている中央の席に居るのを見付けた。 たしかあの中央の席は他の客に見せつけるための席だったはずなので、ユーノちゃんの指定席の様なところだろう。 「相変わらず…悪趣味ね」 大音量の音楽にかき消されてしまっているだろうが思わず独り言が口からこぼれてしまった。 ユーノちゃんの席は本当に何をしているのかよく見える。 今、ユーノちゃんは机の上に座らさせられ、長い銀色の髪を揺らしながら客の股間に身体を折り曲げて顔を埋めていた。 客に後頭部の髪の結び目を掴まれ大きく頭を揺すられている。 そんなユーノちゃんはガラスなのかアクリルなのか分からないが透明な机の上にぺたんとお尻をつけて、ゆすゆすと腰を揺すっていた。 多分机には大人の玩具が仕込んであるのだろう。 他の席に目をやるとユーノちゃん達に煽られた様にキャストと客がキスをしたり、身体を密着させて情事にふけっている。 「あらあら。あれはいただけないわね…」 とある席で、客がキャストに何かを吸わせているのを見付けた。 まぁ違法なセックスドラッグだろう。 キャストの子は明らかにぐったりと力が抜けて椅子に沈んでいったところにお客が馬乗りになっている。 ボーイは何人かフロアには居たが、見ていなかったのか黙認しているのかは分からないが止めようともしていなかった。 うちの倶楽部でもお薬は使うが、きちんと動物実験の後に“地下”での臨床実験をした安全性の高いものだ。 これは何処かに報告しておかないといけないわね。 「はぁ。私もなんやかんや言ってもワーカーホリックよね」 私はやれやれと本日何度目か分からないため息をついて手すりに身体を預ける。 少し目を離した間にユーノちゃんはお客の股間から顔をあげて、机の上で大きく足を開いて中腰になっていた。 やはり机には大人の玩具が取り付けてあったようで、ユーノちゃんのお尻から黒いもう一本の足が生えている。 お客がユーノのちゃんの肩をドンッと押した事によってバランスを崩したユーノちゃんは机にお尻をつけて座り込んでしまった。 足をピンッと伸ばしたまま仰け反ったユーノちゃんの身体が大きく跳ねる。 「こっちは駄目ねぇ」 先程薬を吸引させられたキャストは、お客に身体を支えられながら千鳥足で個室に連れていかれていくのが見えた。 個室といっても、低いパーティションとカーテンで仕切られたところにベッドが置いてあるだけの簡素な場所だ。 当然パーティションが低いので上からは何をしているのかは一目瞭然なのよね。 個室に連れ込まれたキャストの子はベッドに組しかれ、男が腰を振っていた。 キャストの子はユーノちゃんみたいに足をピンッと伸ばしているが、こちらは身体が硬直しているのではないだろうか。 ユーノちゃんに視線を移すと、仰向けになってお客様を挑発するみたいに腰を動かしている。 あれは意識的にやっていると言うよりは無意識のことだろう。 「ユーノちゃんも、もうちょっと頭に身が詰まってればねぇ」 うちの倶楽部は奴隷になるのに制限はない。 容姿なども問わないし、学がなくても勿論いい。 しかし、倶楽部に斡旋をするあの質屋で数回に1回の割合で競売が行われる。 ほとんどの奴隷候補の子達はうちの倶楽部で調教を施すできレースが組まれているのに、ユーノちゃんの時はたまたま競売の会だった。 見目は美しかったが背中に無数の傷があること、精神に疾患があった事で買い手が中々付かなかった。 流石の倶楽部でも大人数を受け入れられない。 そこで声をあげたのがここのオーナーの友人を名乗る男だった。 ユーノちゃんに売春させて儲けようと思っていた様だが、鬱状態のユーノちゃんがその男を殴った事でこの名ばかりの高級娼館に押し付けられたらしい。 ユーノちゃんからは何度も私のバーで働きたいと打診があったが、流石にうちの奴隷でも調教後は自分のご主人様の専属になるかご主人様が居ないフリーの場合は適正のあったチームの監視がつく。 それからみっちり教養などの訓練があると伝えると自分は無理だと何度も項垂れていた。 申し訳ない気持ちもあるが、スタッフには一定の水準がないと店の中の均等がとれないのでこればかりは仕方がない。 「あらあら」 ビクビクっと身体を大きく痙攣させたユーノちゃんが机の上に横向きに倒れる。 倒れた事で大人の玩具が机から剥がれた。 ズルズルと押し出されてきたおもちゃは結構な長さがあったようで、肉を押し拡げて出てくるその刺激にユーノちゃんは机の上で身体を丸めて耐えていたが、そのお尻をお客が何度か平手で叩く。 玩具の端を持ってお尻を叩きながら玩具を抜き差しする。 大音量の音楽のせいで声は聞こえないが、ユーノちゃん達の行為をフロアの皆が見ていた。 お客が玩具を勢いよく引き抜いた音が音楽の合間に微かに聞こえる。 腰を猫の様に高くあげたユーノちゃんの孔はぽっかりと大きく開いて男を誘うように震えていた。 この光景を見たお客様達の興奮する声が音楽の重低音に重なって床が揺れているのではないかという錯覚さえするほどだった。

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