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第7話
Jちゃんとゆっくりルームサービスを食べてから、二人でメイクしたりして身支度を整えてからホテルをチェックアウトする。
ホテルの前でJちゃんをタクシーに乗せて送り出してから、私もタクシーに乗ってマンションに帰ってきた。
「あら。今からご出勤?」
「やぁダイヤ。君は朝帰りかい?」
マンションのエントランスでクラブのオーナーのバカラちゃんと鉢合わせした。
私が住んでいるマンションは、一棟丸々倶楽部の持ち物でここには色々なスタッフが住んでいるのよ。
さっき別れたJちゃんもここに住んでいるんだけど、ご褒美としてお泊まりするのを他のメンバーに見られちゃうと嫉妬の対象になっちゃうから、私はわざわざホテルに泊まったりするわ。
私はぼんやりバカラちゃんをみていると、ブランド物のスーツをピシッと着こなして隣にはSP兼秘書の体格のいい男が立っている。
この秘書の子はスペードちゃんのチームの子だった気がするわ。
確か、ナンバーは若い方の子だったはずよ。
でも番号の優劣はグループ毎に昇降順なのか下降順なのかランダムなのかは公表されていないから自分の所以外は分からないのが正直な話ね。
因みにダイヤのグループは数字の昇降順に役職の重要度が上がってくるのよ。
「そうなの。ちょっとハッスルしちゃったわ」
「君も若くないんだから、程々にした方がいいぞ?」
「バカラちゃんにその言葉、そっくりそのまま返すわ。若いパートナーにメロメロなんでしょ?」
「ははは。君には敵わないなぁ」
バカラちゃんに悪戯っぽくウィンクをすると、バカラちゃんの顔がくしゃっと子供の様に歪んだ。
ナイスミドルの笑顔なんて朝から眼福ね。
私は参加していなかったのだけれど、バカラちゃんは最近依頼品のおまけとして連れてこられた子を引き取って一緒に住んでいるみたい。
生活は自由にさせているし、相当可愛がっているから本気なんでしょうね。
私も若い頃からバカラちゃんと一緒に倶楽部をもり立ててきたけど、こんなに穏やかな顔のバカラちゃんは本当に貴重なのよ。
「私はこのあと午後から回診に行かなきゃいけないから、少し家で仮眠するわ」
「君も大変だね」
「うふふ。オーナーほどじゃないわ」
私とバカラちゃんが笑い合うと、横に立っていた秘書がバカラちゃんに合図を送った。
スペードの彼は無口な様ね。
私はアクビを噛み殺しながらバカラちゃんに手を振るとエレベーターに飛び乗った。
一応高層階は幹部が多く住んでいるので、カードキーがないと上層階へは行けない仕様になっている。
下位の子達を信じて居ないわけでは無いけど、一般人と付き合っている子も居るから何か起きる前に対策をしなくちゃね。
「はぁ。楽しいけど、やっぱり若さには勝てないな」
私は家に入ると、ウィッグを脱いでスタンドの上にのせた。
ついつい医者時代の話し方になってしまう。
メイクを落として着替えを済ませると仮眠をするために、ベッドへ倒れこんだ。
ピンポーン♪
「ん?」
私はチャイムの音で目を覚ました。
枕元の時計を見ると、2時間程経過している。
「だれだよ…」
「ダイヤ~イルンデショ~!!」
私は大きく伸びをしながらインターフォンのモニターに近づく。
片言の日本語が聞こえてきて、寝起きなのに疲れがどっと来たような気がする。
モニターには、チョコレート色の肌に分厚い唇。
ざっくり開いた胸元からはたわわな胸がプルプルと揺れているのが見えた。
私は大きなため息をついて、モニターの通話ボタンを押す。
「おはよう。ハートちゃん」
「ダイヤ!今日コソ部屋ニイレテモラウンダカラ!」
「前から、うちには誰も入れないって言ってるてしょ?危険な物が沢山置いてあるのよ?」
「サワラナイからイイデショ?将来的ニハ一緒ニ住ムンダカラ」
扉の前に居るのは、私と同じナンバーなしのハートちゃん。
ハートちゃんのグループは私達、倶楽部のメンバーと違って女の子だけのグループなの。
ハートちゃんはそのグループの頂点にして唯一の女王様で、Queen of Heartの称号を持っているのよ。
そんな女王様は、実はバカラちゃんの娘さんなの。
ハートの国の女王様は子供の頃から何故か私にお熱なのよね。
「あなたとそういう関係になるつもりはないと言っているでしょ?」
「絶対ダイヤをフリムカセテミセルカラ!今日ハ時間ナイカラ帰ルケド、結婚ハアキラメナイヨ」
台風みたいに帰って行ったハートちゃんに、私はまたしても大きなため息が出た。
ハートちゃんが思春期の頃は、女の子特有の下着の事や身体の成長の事なんかを病気がちな奥さまの代わりに親身になって相談に乗っていたの。
バカラちゃんが奥様を亡くしてからは、ハートちゃんを母国のお婆様のところに預けていたら開放的なお国柄のせいか台風娘に育っちゃったのよね。
帰国して、昔の事を懐かしんでいたら何故かこんなオカマに女の子が結婚を申込んでくるなんて思ってないじゃない。
こうやって家にやって来ては、押し掛け女房を実践しようとするのを追い返すのに手こずってるのよね。
今日はとっても運が良い方よ。
時間が無いなら、わざわざ自分が住んでいる離れたマンションからこちらに来なければいいのにね。
「はぁ。回診に行かないと…」
私は自分の頬を叩いて変身するために衣装部屋に行く。
ハートちゃんに言ったことは本当で、私は家に誰も入れたことがない。
自分が潔癖と言うわけではないし、片付けられないというタイプでもないのだけれど家の中は唯一ほっとできる空間で過ごしたいのよね。
家の中ではウィッグもメイクもしていないからまるで別人なの。
リラックス空間を侵食されるのが嫌なんだと思うのよね。
でも、実際見せられない物や危険な物が置いてあるのも事実なんだけどね。
「忘れ物はないわね」
私は着替えてから大人しめの色のウィッグを被って荷物をまとめる。
白衣や聴診器などの回診に必要な物を鞄の中へ入れて、消毒液などの薬剤が切れてないかの確認もした。
使い捨ての注射器のパックやチューブなども補充したのをもう一度確認してから家を出る。
移動はスペードちゃんのグループの子達の仕事だから、連絡をしておけばきちんと補助をしてくれるのよ。
「あら。今日はよろしくね?」
「よろしくお願いします。ダイヤ様」
私がエントランスから出ると、1台のハイヤーが停まっており運転手が扉を開けて待っていた。
私はそれに乗り込むと、運転手の子が扉をそっと閉める。
行き先を告げると、車はゆっくりと走り出した。
「まずは質屋ね」
「いってらっしゃいませ」
「あなたも中で待ってるといいわよ」
「はい。お言葉に甘えて」
最初の目的地に着くと、運転手の子が運転席から走ってきて扉を開けてくれる。
私は建物の中で待っている様に言うと素直に運転手の子は頷いた。
私は建物の裏手にある従業員用の扉の前に立っていて、すぐに中からスーツ姿の男が二人出てきた。
「ダイヤ先生お待ちしておりました」
「お疲れ様です」
「今回はどんな状況?」
建物の中に入ると、早速案内役の達からいつもの言葉が出てくる。
ここは倶楽部が提携している質屋で、この質屋ではどんな物でも取り扱っているの。
新しく奴隷になる子達の斡旋なんかも請け負っているのよ。
奴隷になる子達は経緯や事情なんかもそれぞれなんだけど、こうやってお金と引き換えに預けられたりする子も居る。
そんな子達は年齢によってすぐに調教を受けるのか、じっくり育てて一流の奴隷に仕上げるのか見極められる。
未来のご主人様に仕える為の調教や、技術なんかを教育する機関が倶楽部にはあるのよ。
そこは私達幹部からは“オイスター工場”と呼ばれていて、子供の頃からみっちりと快楽や痛み、性技を身体に吸収させてていく施設なの。
表向きは普通の学園ではあるんだけど各学年には特別クラスが設けられていて、そこで次世代の幹部や奴隷達を育成していいるのよ。
特別クラスの子達は年に数回、一般クラスと一緒で身体測定という名目で私達ダイヤのグループが健康診断を担当しているの。
今回この質屋に来たのは、この店に居る“商品”が返ってくると連絡があったからなのよね。
「それが、今回はかなり暴れてまして…」
「あら?何かトラブルでもあったの?」
「なんでも対象者が、度を越えた加虐趣味だった様でして」
「それで?対処は?」
「いつもの様にバスルームに拘束帯をつけて隔離してあります」
私は足早に患者の居る部屋に向かう。
厚みのある絨毯張りの廊下を歩いて、目的の部屋の前に来た。
部屋の扉には鍵などは無く、容易く扉を開けられそうに見える。
案内役の男がポケットからカードを取り出すと、ピーッという小さな電子音の後に鍵の開くカチッという音がした。
「どうぞ」
部屋の中に通されても、部屋の中はがらんと人気がなくシーンという音が聞こえるのではないかと言うほど静まり返っている。
私は迷わず部屋の中を進み、ある扉の前に立った。
案内役の男が急いでその扉の鍵を取り出して解錠する。
私が扉をゆっくり開くと、さっきの静けさが嘘みたいに大きな叫び声が聞こえてきた。
「治療は?」
「応急処置と、洗浄はしてあります」
私は医療用品の入ったバッグを下ろすと鞄の中からゴム手袋を取り出す。
それを素早く装着しつつ、案内役の男に次々と質問していく。
私は患者に向き合う為に、大きく息を吸い込んだ。
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