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第3話

*  大学に入るまでは、地味な人生を送ってきたのだと思う。授業が終わっても誰かと話をすることはなく、ただ黙って席に座り、本を読む。そんな、クラスに必ずひとりはいるような奴。  友人なんていなかった。本に出てくる友情に憧れても、自分から誰かに話しかけることなどできなくて、誰かが話しかけてくれることもなかった。  ただ息をしているだけの生活を何とか変えたいと考え、大学の合格通知が届いた日、すぐに美容室へ行った。それまでまったく弄ったことのなかった髪を、流行りの髪形にしてもらい、生えるままだった眉も整えてもらった。  ファッション雑誌を読んで、おしゃれな服も買いそろえたけれど……外見を整えても無駄だった。大学に通い始めても、なかなか友人はできなかったのだ。きっと、地味な中身が透けて見えたのだろう。  智泰から声をかけられ、そんな生活は一変した。  彼はどこにいても人気者だ。僕より三センチは高い身長で、整った顔立ちと、自然におしゃれな服装。人の目を集めることに慣れているようで、どれだけ注目されようとも常に堂々としていた。  スクールカーストの上位にいる智泰が、その下位にいる僕へ声をかけてきたきっかけは、寝ぐせだった。 「後ろの髪が、面白いくらいに跳ねてるぞ」と指摘され、僕は恥ずかしさに消えてしまいたくなった。からかわれたと思ったけれど、彼は朗らかな笑みを浮かべながら、ヘアワックスで寝ぐせを整えてくれた。 「おまえの目、マジででかいな。いいね、そのくっきりとした二重まぶた。憧れるわ」  一度だけ、彼から「憧れる」という言葉を貰った。あの瞬間を、僕はいつまで大切に抱こうとするのか。  彼という餌に食いつかない選択肢はなかった。うまい餌の先に、尖った釣り針があるとはまったく気づかなかった。共に過ごす時間が増えるにつれ、彼の魅力にはまっていった。自分も彼のようになりたいと、憧れた。それなのに――

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