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第4話
目を覚ますと、プレハブ小屋には智泰の姿しかなかった。彼はパイプ椅子に座り、うまそうに煙草をふかしている。
声を出そうとしたが、枯れ木を引っ掻くような音しか出なかった。しかし、智泰はすぐに、僕が目を覚ましたことへ気づいたようだ。宙に漂わせていた気だるげな視線を、こちらに向けてくる。
「正気に戻ったか?」
無表情で尋ねられ、ゆっくりと身を起こせば、身体のあちこちが悲鳴を上げた。燻されたような匂いが、口内に漂っている。舌がとても熱い。突き刺すような痛みも感じる。
「水……を」
「あれだけ喘げば喉も嗄れるだろうなぁ。それとも、舌が火傷したか?」
彼の顔に嘲笑が浮かぶ。
立ちあがろうとしたが、腰に力が入らない。
智泰は煙草を咥えたまま、僕の目の前へと歩いてくる。彼の動作は洗練されていた。誰かから、実家が金持ちだと聞いたことがある。そのきれいな動作は育ちのせいだろうか。
智泰はなぜ、僕の頭上で、ズボンのファスナーを下げるのだろう。ペニスを抜き出して、彼は嘲笑を浮かべ続ける。
「上を向いて、口を大きく開け。おまえにくれてやるよ。俺の、小便」
大きく見開いたまぶたが、痙攣した。
待ってくれ、やめてくれ。そういった拒絶の声は喉に張りついて、表へ出てこなかった。せめて目に入らぬようにしようと思い、まぶたを閉じれば、頭上から生ぬるい尿が降ってくる。
「はは……はははっ。いい様だなぁ、おい」
全てを出し切ったのだろう。智泰のしゃがむ気配を受けた。
まぶたを開くと同時に、じゅううっと鎮火するような音が聞こえた。僕の髪から滴る尿で、煙草の火を消したのだ。
「ちんぽをぶち込まれて、喘ぐ気分はどうだった?」
間近で見る目に、不気味な光が宿っている。
「普通の生活には戻れないな。強姦されてイっちまう映像をネットに流され、こうしてヤクまで打たれてさぁ」
口の中で何とか舌を回し、強制的に湧かせた唾液を飲み込んで、喉の渇きをわずかに癒やす。
「どうして……いつまで、こんなことを」
握り締めた手が震えた。
以前に一度だけ、大学内でゲイを見かけた。そのとき隣を歩いていた智泰と、ゲイについて語り合った。
「吐き気がするよ」と言ったら、彼は同意したのに。いや、つまりは身の毛のよだつ行為を僕に強いたかったということか。そこまで恨まれることを、彼にした覚えはない。理不尽さに喉が熱くなった。
外は風が吹き荒れているようだ。プレハブ小屋の揺れる音がする。
「今日で終わりだ」
さらりと言われたので、一瞬、聞き間違えかと思った。眉をひそめながら、彼を見つめる。
「信じられないか? それとも、足りないって? とんだ淫乱になったもんなぁ、おまえ。ちんぽをうまそうにしゃぶりやがって」
何が言えるだろう。頭の先から、血の気がざっと下がる。
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