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第6話

「噂を流したのは、君だろう」 「ついでに、秋人が主演のアダルト映像も、広めておいてやったよ」  笑い混じりに言うと、智泰は腰をくの字に曲げ、腹を抱えた。 「はっ。ははっ。ははははは!! ああ、楽しかったわ。覚えているか? 最初におまえをさ。騙して連れ出し、数人で犯しまくったあの夜を。ケツから血を流しながら、ひーひーわめいていたよなぁ。ばたばた暴れる姿はまるで、浜に打ち上げられた魚みたいだった。そのまま窒息死でもしそうなくらいに、おまえは……ふはっ。思い出すと笑いが止まらん」  全身に悪寒が広がった。  こいつは狂っている。涎をまき散らす勢いで、笑い続ける姿を見て、そう確信した。  唇は震えるが、それでも、このまま黙って引き下がることはできない。 「普通の人生が。結婚し、子供と暮らす人生が、智泰に送れるとでも?」 「送るさ。秋人との楽しい楽しい思い出を胸に、な」  背中を向け、ひらひらと手を振って、彼は去ってゆく。全身に打撲の痣をつけられ、精液と尿にまみれ、全裸で床へ力なく座っている僕を残し。  ここは地獄よりも深い場所にある。底なんて見えやしないし、見ようとしても仕方がない。もう這いあがれないのだ。  実家には二度と顔を出せないだろう。地元の大学へ行くのではなかった。両親もじきに噂を知るはずだ。いや、後悔はそこにすべきではない。最初に。彼と出会ったあのときに、朗らかな笑みを向けられたからといって、飛びつくのではなかった。餌に食いついた自分の愚かさが、笑えて、笑えて、喉が千切れるような叫び声が飛び出す。 「智泰……ともやすぅ!!」  ああ、薬だ。薬が欲しい。ヤクを打ちたい。こんな、鬱々とした気分は最低だ。痛めつけられ、勃起し、射精した自分が情けなくて、惨めでたまらない。悔しさに歯軋りをすれば、口の中に血の味が広がった。  服を探すが、見当たらない。  どうやって帰れというのだ。ここの小屋はどこにある。目隠しをされ連れてこられたというのに、それをした人間が、こんなふうに置いてゆく。捨ててゆくというのか。  僕にはもう、彼が必要不可欠なのだ。ここまでされて、用済みだと放り出され、どういう生きかたができるというのだろう。与えられ続けた痛みは、瘡蓋にすらならない。流し続ける血を拭えるのは、彼だけだというのに。  僕は恋をしたことがないけれど、自慰をするときに使うのはいつだって、女の裸だった。男に肉欲を覚えたことなど、智泰からの残虐な仕打ちを受けるまでは、一度もなかった。それなのに今は――勝手にアヌスがひくつく。ペニスの匂いに勃起する。こんなふうにしておいて、自分は平然と、日の当たる道を歩くつもりか。  頭に上る熱で、眼球が溶けそうだ。  震える頬に、爪を立てる。指先が血で汚れるほどに、何度も頬を引っかいた。 「大丈夫。大丈夫だ。大丈夫。ああ、ああ、あああああっ。僕は、ほら、大丈夫だ」  ふらつく足で、どうにか立ちあがる。小屋の隅に重ねて置かれていた新聞紙を身に纏えば、尻に当たる部分が、アヌスからこぼれた精液で濡れた。

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