16 / 41
秘密4
「汚いけど、くつろいでて」
和哉はそう言って、リビングのソファーを薦めてくれる。
和哉の住んでいるマンションは大学から2駅ほど来た住宅街の中にあった。
部屋はファミリータイプで、モデルルームの様なお洒落な部屋には実は毎回密かに惚れ惚れしている。
「たいしたものじゃないけど、良かったら食べてよ」
「そんなつもりで来たんじゃないからお気遣いなく」
和哉がキッチンからお茶とお菓子を持ってやってくる。
盆の上に乗っているのはお洒落なティーカップで、大学生の部屋には似つかわしく無いような高級そうなものだ。
俺がニッと笑うと、和也もニッと笑った。
「同居人が仕事場で貰ってきたやつだから遠慮するなよ」
地方出身だという和哉は、当初別のところに住んでいたらしいのだが色々あってこの部屋に今の同居人と住むことになったらしい。
和也の同居人を未だに見たことはないが、俺は女の人ではないかと思っている。
というのも、俺の座っている高級そうなソファーの端には可愛らしいぬいぐるみが鎮座しているからだ。
部屋の雰囲気は全体的に洗練されているのだが、可愛らしい小物がちらほら置いてあることから和哉の同居人は仕事のできる年上の女性というのが友人達の間でもっぱらの噂だ。
「今部屋から資料を持ってくるよ…マジでお菓子でも食べて待ってて」
「ありがとう」
そう言って和哉は自分の部屋に消えていく。
ガタガタッ
和哉の部屋とは別の部屋から微かな物音がする。
同居人が居るのだろうか。
人が居るなら挨拶しなければならないと思って腰を浮かせる。
「司どうした?」
「えっ?あ…いや」
物音に気をとられているといつの間にか和哉が戻ってきていた。
気のせいかと思い、ソファーに腰を下ろして和哉が入れてれたお茶に口をつける。
バカラが淹れてくれた紅茶と似たような匂いがして一瞬ギクリとしたが、表情を変えない様につとめた。
「これが~だから、ここの結果はおかしくない?」
「いや、でもここが~になるからこの結果で問題ないだろう」
ふと窓の外を見ると、とっぷりと日が暮れている。
バカラの事もあり、俺は瞬時にヤバイと思ってしまう。
「遅くまでごめん!俺、そろそろ帰るわ」
「もうちょっとゆっくりしていってもいいんだぞ?」
「和也の同居人が帰って来ちゃうかもだろ?挨拶はしたいけど、店にも行きたいしさ…」
和哉には引き留められたが、この事でまた外に出してもらえないのはまっぴらだ。
俺は和哉に申し訳なく思いつつ丁重に誘いを断って帰り支度をはじめる。
広げていた資料や文房具をカバンに仕舞っていく。
「あ、ごめん。帰る前にトイレ貸してもらっていい?」
「気にせずどうぞ」
俺はさっと身支度を整え終えて席を立った。
トイレに行くと言うのは言い訳で、とりあえずトイレに入って携帯をチェックする。
バカラから連絡が無いことに胸を撫で下ろす。
そんな事を気にするなんてまるで、門限を気にする小学生みたいだと自嘲してしまった。
この状況に少し暗い気持ちになりながらもトイレを後にする。
「はぁー」
ガタッガタガタ。
大きくため息をついたところでトイレの前の部屋から物凄い音がする。
リビングに居るときに気のせいかと思ったが、やはり誰か居るのだろうか。
余りにも凄い音がするので、悪いと思いつつノックをしたが返事が無いので部屋の扉をそぉと開ける。
「…っ!」
そこには机に縄やガムテープ等で拘束された男が居た。
男が身体をよじる度に机が動いてガタガタと音がしている。
「おいっ!大丈夫か?」
「んんんんっ!」
俺は思わず部屋に入り、急いで男に近付いた。
男は俺が近付くと、動けないなりにじたばたと暴れだす。
近くで見ると首には赤い大型犬に着けるような首輪をされ、そこに金属のプレートがついている。
腕は縄で机の足に縛られていて机の足を掴んでいた。
「今外してやるから!」
顔には目隠しがされ、胸にはローターが貼り付けられている。
脚は折り曲げられており、膝をガムテープでM字に固定されていた。
後ろの孔にはバイブが挿入されていて、それが抜けないようにガムテープが貼られている。
俺は拘束を解いてやろうと声をかけるが、俺の声にパニックにでもなったのか、男は益々暴れだす。
「つーかーさ?何してるの?」
急に後ろから声をかけられ、驚いてバッと後ろを振り向く。
するとそこには和哉が笑顔で立っていた。
「か、かずや…」
「なかなか帰って来ないから何してるのかと思ったんだけど、好奇心は猫をも殺すって…この事だね」
いつもの優しげな雰囲気はなくこんな状況にも関わらず、くすくす笑う和哉が恐ろしくなって後ずさる。
しかし、ゆっくりと近付いてくる和哉によって壁際に追い込まれてしまった。
「司…ばんざーい!」
「ば、ばんざーい?」
和哉が両手をあげると、俺はその掛け声に合わせて反射的に手を挙げてしまう。
ガチャン
頭上から金属音が降ってきて、俺はやっと我にかえった。
「は?」
「司って素直だよね」
俺が音の方を向くと手首には手錠をされていた。
そのまま壁にあるフックに手錠をひっかけられてしまって、俺は呆然とする。
そして冒頭に戻るわけだ。
「んん~~~~っ!」
「だいぶ薄くなっちゃったね…」
和哉は口を離し、手で上下に擦ると拘束されている男は呆気なく果てる。
その腹に飛び散ったものを指先に絡め、ペロリと指先を舐める和哉は凄く楽しそうだ。
男には目隠しがされているせいか、次に何をされるのか分からないためビクビクと足が揺れているにも関わらず、未だに小さな抵抗をしている。
「さっきも言ったけど、逃げた君が悪いんだから抵抗しても無駄だよ」
「逃げた…?」
「あぁ…司はイイコだったから知らないんだ」
「何のこ…と…」
和哉はこちらを向いてにっこり笑う。
その笑顔からは今の行為が結びつかずに、ついポカンとしてしまう。
「バカラ様から聞いてないの?」
「バ…カラ…さ…ま?バカラ様!?」
和哉の口から予想外の名前が出てきて驚いて和哉の顔をもう一度まじまじと見てしまう。
何で和哉がバカラの事を知っているのか疑問符で頭の中がいっぱいになる。
「俺がバカラ様の言ってた監視役だよ」
「は?」
和哉の突然の告白に益々頭が混乱してくる。
和哉は一体何を言っているのだろうか。
この前から信じられないことばかりで現実逃避をしたくなってきた。
「ん~?俺は司の先輩ってことかな」
「和哉…何いって…」
顎に指を当てて小首をかしげていた和哉の雰囲気が変わる。
和哉は立ち上がると俺の方を向いて自分のきっちり着ていたシャツをめくり、スラックスに手をかける。
「ちょっと…和哉!」
俺が慌てていると、和哉の肌が露になる。
健康的に焼けた肌に無駄のない筋肉が綺麗についており、同じ男としても見惚れてしまうほどカッコいい身体つきをしていた。
「和哉…それ…」
「そぅ。これが証拠」
下着をずらしたところで股関節がみえた。
その上にはタトゥーが刻まれている。
何処かで見たことがあるような気がして、記憶を必死に引っ張り出す。
「これはご主人様のを半分いただいてるんだ」
「ご主人様?」
そう言われて、もう一度和哉のタトゥーを見るとスペードが半分になっているデザインの横にローマ数字でⅢと数字が刻まれている。
「和哉…それって…」
「俺は5年前にCLUB Aliceで調教を受けたんだ」
「・・・」
「その後、ご主人様に着けてもらったのがこれ」
和哉は更に胸元までシャツをめくりあげた。
露になった胸元にはリング状のピアスが光っている。
「バカラ様は本命には甘々なんだな。まぁ、だから俺が監視役なのかなぁ」
そんな事を呟きながら和哉は服を元に戻す。
俺はそれをただ無言で見ていることしかできなかった。
それほどまでに和哉からの告白は衝撃的で、予想外だったのだ。
「さぁ。司にも現状が把握出来たところで君へのお仕置きだ」
「ん、んむぅ…」
和哉はポンッと手を打つと再び男に向き直りそう宣言した。
男はお仕置きと言う言葉に反応してか身体が小刻みに震え出す。
和哉は男のそんな様子などお構いなしに男の腕や足の拘束を外して行く。
男の解放された手足は長時間の拘束のためか痕がついており見ているこちらが痛々しいほどだった。
拘束から解放されたからか男がまた小さく暴れだした。
「はいはい。暴れない。暴れない。」
「ゴホッ、かふっ」
男は上手く身体が動かないのか肩が微かに揺れるだけだ。
和哉が口のギャグボールを外してやると、大きく息を吸い込んだ男が咳き込む。
ともだちにシェアしよう!