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真相2
「俺は観てないよ」
和哉が否定したので、俺はホッと胸を撫で下ろした。
流石にさっきまで痴態を曝していたとしても、まだ俺には羞恥心が残っているのだ。
「でも大体2人連れてきて、別々に調教する時はもう片方の名前を出すのがセオリーだよ。まぁ…相手を庇おうが、売り渡そうが調教されることには変わりはないんだけどね」
「なんで和哉がそんなこと…」
「俺も頼まれれば調教に参加するからさ」
妙に詳しい和哉に疑問が浮かぶ。
さらっと言ってのけたが、和哉が調教に参加している事に驚きを覚える。
「司は家族2人だろ?息子に騒がれるのが面倒だからって理由で司も連れて来られたんだと思うよ」
「・・・・」
「調教が終れば、お父さんと一緒に依頼人のところで暮らすはずだったんだけど…」
「っ!バカラ…」
「そう。バカラ様のパートナーに選ばれたから今司はここに居て俺の話を聞いてる」
俺は今聞かされた事が衝撃的すぎて目の前がぐらぐらと揺れているような錯覚を起こした。
身体は自然と横に倒れていって、和哉の肩にぶつかった。
「最初は信じられないと思うけど、これは抗えない事実だよ」
和哉はゆっくりと肩を抱いてくれて、ぽんぽんと頭をあやすような動きで撫でてくれた。
決定的な一言に俺は耐えきれなくなって目の奥がじぃんと熱くなってくる。
「うっ…ふぅ…ぐすっ」
「うん…俺の前では泣いていいよ」
和哉は俺の身体を倒して膝枕の様な状態にすると、俺の視界を遮るように片手で目を覆ってくれる。
俺はその言葉に甘えて膝を借りて少しの間泣いた。
「少しは落ち着いた?」
「うん…ごめん…太股のところ濡らした…」
少し気持ちも落ち着いてきたので、俺はのっそりと起き上がる。
少し照れ臭くて熱くなった目許を押さえながら謝った。
「そんなの気にしなくていいよ。バカラ様には司のフォローを頼まれてるし、今回はじめて直接お声がかかった時はどうしようかと思ったよ」
「え?」
和哉は少し嬉しそうに話しているが、そんな話は初耳だった。
脱走しない様に監視役をつけるとは言われたが、それが和哉だともフォローを頼んでいたと言うことも一切聞いていなかったから驚きしかない。
「バカラ様は本当に司の事が好きなんだねぇ」
「そう…なのかな?」
「じゃなきゃ、早々に調教から引き上げて自分の物にしないよ」
「ん?」
どういう意味なのかさっぱり分からなくて思わず首を傾げてしまう。
そういえばバカラにも度々話をはぐらかされる事があった事を思い出す。
「和哉。それってどういう意味?」
「ん~?」
和哉は足を組み、ローテーブルからコーヒーの入ったカップを取り上げるとのんびりと口に運んぶ。
「もしかして聞いてないの?」
「聞いてないって…何を?」
コーヒーを飲み込んで、和哉は心底面白そうな物を見る目でこっちをまじまじと見る。
「へぇ…そーなんだ。バカラ様がねぇ」
コーヒーの入ったカップを再びローテーブルに置くと、くすくすと笑いながら納得の顔で頷いている。
俺はその表情の意味がさっぱり分からなくて頭で疑問符がいっぱい浮かんでいた。
「依頼品ってさ、挿入しちゃいけないんだよ」
「は??」
和哉の突拍子もない言葉に俺はすっとんきょうな声をあげる。
益々意味が分からない。
「拡張は調教の範囲内だからするんだけど、CLUBでは挿入はご主人様だけがするってルールなんだよね…スペード様やクラブ様にはそんなことされなかったでしょ?」
「そう言えば…」
「だからバカラ様は、はじめは依頼品だった司を早々に自分の物にしちゃったってことだよね?」
鼻を人差し指でぷにゅっと押され、そう宣言されるとその言葉がじわじわと染みてきて唖然としてしまった。
「だから…恩人って…」
「おっ?実感沸いた?」
和哉は楽しそうに今度は頬をつついてくる。
しかし、少し悲しそうな顔を浮かべる。
「早く司もここまで堕ちてきなよ…」
「ん?何か言った?」
和哉がボソッと何かを言ったのを俺は聞き取れなかった。
聞き返すが、和哉は何事もなかった様にまた笑顔に戻り頬をつついてくる。
そうされていると、こんな境遇でも俺は凄く恵まれた方だったのかもしれない。
そう思えた事で少し心は楽になった。
しかし、まだ心配事が無くなったわけではなく、父さんの事が気掛かりでならない。
「和哉…父さんは今何処に居るか分かる?」
「まだCLUBに居るけど、たぶん会わせてはくれないと思うよ」
「そうだよね…」
和哉なら知っているかと思って聞いてみたが、当然かもしれない。
俺はたまたまバカラに引き上げられここに居る。
しかし父さんはそうではないし、むしろ俺の方がオマケだったんだ。
さっきの地下室の話を聞いたら、父さんが生きて居てくれるという事実だけで今は十分な気がした。
ダダダダダダダッ!
急に大きな足音がして、俺はそちらに目を向けると、凄い形相で生まれたままの姿の龍二がこちらに走ってきた。
「おっと。龍くんナイスタイミング!」
時計を見るとたっぷり2時間ほど経過しており、随分話し込んで居たようだ。
部屋からリビングまでそれほど離れた距離ではないにも関わらず服も着ずに物凄い勢いで来たなと呑気に思っていると、龍二は和哉の前までやって来た。
相変わらずの凄い形相に、殴り合いでもはじまるのではないかとドキドキして二人を見守る。
カバッ
そんな効果音が聞こえるのではないかと思うほど凄い勢いで、龍二は和哉に抱きついた。
「龍くん俺もご主人様も居なくてビックリしたんだね」
「うん…」
ついさっきまでの形相は何だったのかと思うほど甘えきった声で和哉の肩に頭を擦りつけている。
まるで大きな犬の様で少し可愛い。
「ビックリしただろ?これ寝ぼけてんの」
「凄い勢いで走ってきたけど…」
「あぁ…飛んだ後は大体こんな感じで甘えん坊さんなんだよなぁ?」
「う~?」
和哉に頭をグシャグシャと乱暴に撫でられると龍二は何を言っているのか分からないと言った様子で俺を見詰め返してくる。
「正気に戻ったら、まだまだ強気だから今のうちに抱っこする?」
「そんな犬じゃないんだから…」
そういって断ろうとすると、龍二が俺の膝の上に乗り上げてくる。
龍二が肩に顎を乗せたかと思うと、すぅと言う寝息が聞こえてきて心底驚いて固まってしまった。
「よかったね司。龍くんに気に入られたみたいだよ」
「そうなのかな?」
一人っ子の俺は、なんだか弟がてきたようで少し嬉しい気持ちになる。
背中をぽんぽんと軽く叩いてやると腰に巻き付いていた手がだらりと落ちて本格的に寝入ってしまったようだ。
「龍くんは少し特殊でさ…」
和哉はソファーの隅に置いてあったブランケットを龍二にかけてやり、少しボリュームを落とした声で話し出した。
「はじめは依頼品としてCLUBにきたんだけど、この通り気が強くて龍くん脱走を試みてさ」
和哉はすぅすぅと寝息を立てている龍二の頭を俺にしたように優しく撫でる。
「調査表では家ではろくな扱いを受けていなかったみたいで、荒れてたところに今回の依頼が来たみたいで…。普通だったら、こんな情に流されたみたいな事はしないんだけど、今の所逃げて捜索中って事にしてある」
「こいつも色々大変なんだな…」
本当にCLUBに集まって来る者たちは色々と事情を抱えている様だ。
自分も人の事は言えないが、俺も同情してしまってぽんぽんと龍二の頭を撫でた。
「もうこんな時間か…司もそろそろ家に帰った方がいいな」
「そうだな…」
「ちょっとまってな」
和哉がキッチンに消えて行くと、周りはしんと静まり返り龍二のすぅすぅという寝息だけが聞こえてくる。
俺は、龍二の寝息と人肌の温かさにうとうとと眠り込んでしまった。
+
ふと目を覚ますと、腕の中に温もりを感じてふと目を向ける。
そこには龍二がすぅすぅと寝息を立てていた。
更に腰に手が回っているのを感じて、振り返ると背中には和哉が寝ていた。
「何…この状況?」
昨日はソファーで龍二を膝に乗せていたら温かくてうとうとしてしまったまでは覚えているのだが、あのまま寝てしまったのはのだとは思う。
しかし、状況のカオス加減に溜め息が漏れそうになるが、なんとかそれを我慢して声を潜めて和哉の手を叩く。
「ちょっと…和哉。起きて!」
「ん~?」
和哉がもぞもぞと動き出す気配を感じて、小さく声をかける。
腰に回していた手が、するっと胸元まで上がってくる。
そのままモニモニと揉むような仕草になって流石に俺は焦りだす。
「か・ず・や!」
「…ん?」
俺はやめて欲しくて叫ぶと、和哉が目を覚ましたのか手の動きが止まった。
和哉は異変に気が付いたようで、のっそり起き上がってまじまじと俺と龍二を見る。
やめて貰った事に安堵のため息をついていると、和哉はベッドサイドのスマートフォンを取り上げパシャッと写真を撮る。
「え?今なんで撮ったの?」
「なんか…天使すぎたから」
「はい?」
「なんか、子猫と仔犬がくっついて寝てるような可愛さだった」
和哉も寝ぼけている様で言動も動きも変だった。
和哉は携帯で時間を確認したあと、龍二のせいで動けない俺を残し部屋から出ていった。
龍二は俺にぴったりとくっついていて温かい。
龍二の規則的な寝息を聞いていると俺もまた眠くなってきた。
なんとか起きていようと頑張るが、人の寝息とは眠くなる作用がある様で俺は再び目を閉じて夢の世界へと旅立った。
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