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生活

side司 「もうすぐ夏休みだな」 「そうだね」 大学のカフェテリアで、次の講義までの時間を和哉とコーヒーを飲みながら本を読んで過ごしていた。 和哉の話を聞いたあの日から監視という目的があるからなのか外出するときは常に和哉と一緒だった。 はじめは監視されていることに嫌な緊張感があったが、慣れてしまえば至って普段と変わりはない。 「司は永久就職だろ?」 「ブフッ!…ゲホッ、ゲホッ!は?」 「ん?」 和哉は至って普通の事を言った様で、俺の反応に不思議そうな顔をする。 そりゃ女の子じゃあるまいに永久就職なんて言われれば驚くのは至って普通の事だろう。 丁度コーヒーを口に含んだところだったので、それを思いっきり吹き出してしまった。 幸いな事に本には被害がないことにホッと息をついた。 「いや…永久就職っておかしいだろ。俺普通に内定貰ってるし」 「は?バカラ様に聞いてないのか?」 「聞いてないって、何を?」 和哉がまたしても面白いものをみる目に変わった。 前から思っていたが和哉は何で俺の話を俺より先に知っているんだろう。 「ご本人に聞けば?」 「は?つか、何でそんな事知っているんだ?」 「だってアーティー…俺のご主人様はバカラ様の秘書だし?」 和哉は自分では言うつもりはないらしく、バカラに聞くように言ってきた。 しかし、和哉は相手の事を愛称で呼んでいるようだ。 そういえば、俺はバカラの本名を知らないかもしれない。 「ん?どうした?」 「そういえば…俺…あの人の本名を知らないかも」 「お?相手に興味を持つことはいいことだぞ!頑張れ!」 口では応援してる風なのに、和哉は外の風景を見ながら言っているので全然心がこもっていないのが分かる。 曲がりなりにも監視役なのにいいのかと少し心配になるほど心ここに有らずって感じだ。 「そ、そういう和哉はどうなんだよ!」 「俺はもう決まってるから」 「就活いつしてたんだ?!」 「んー?」 気まずくなって話を振ったのは良いが、実は和哉は元々就活している様子が全くなかった。 成績も良いから院にでも行くものだと思っていたが、いつのまに就活したんだろう。 それか先輩のつてだろうか。 「何か考え事?」 「実はりゅうくんが昨日からお出かけしてるんだけど、アーティーとイチャイチャしようと思ったらアーティ昨日から出掛けてんだよ!」 「へぇー」 俺が和也の就活の時期を考えていると、当の和也の元気が無いように見えたので聞いてみたが…ノロケられて終わったよ。 でも、龍二が出掛けるなんて不思議だなと思う。 「せっかく二人で遊ぼうと思ったのに!」 「た、大変だな」 和哉の勢いに俺はたじろいでしまったが、和哉の所も仲は良好のようだ。 「でも、今日はちゃんと帰ってくるから司一緒に料理しよう!」 「う、うん」 つい和哉にはぐらかされた上に上手く押しきられた気がする。 キーン、コーン♪ 授業が終わるチャイムが鳴ったのでカフェテリアを後にして授業の教室に向かった + 「よし!作ろう」 「今日のメニューは?」 机の上には色とりどりの野菜が並んでいる。 大学の帰りに和也と二人でスーパーで選んできたものだ。 いくら監視役といえど友達と買い物をして一緒に料理を作るなんて実に大学生らしくて4年間バイト三昧だった俺は密かに感動していた。 「バカラ様もアーティーも和食が好きなので、今日は和食です!」 「はい!」 何故か和哉のテンションが高いが、俺もつられて楽しくなってくる。 どこぞのバラエティー番組かと言うほど2人ともテンションが高い。 「今日は小松菜のおひたし、大根と油揚げの煮物、揚げ出し豆腐、けんちん汁、少し早いけどメインはサンマだよ」 「豪華だな」 「料理の余った物はけんちん汁に入れちゃえばいいから楽だよ」 「和哉って料理上手だよね」 俺は感心していた。 子供の頃から料理はしていたが、どうしても男の料理になりがちだ。 ちょっと品数を聞いただけで凄いなって思ってしまう。 「さぁ、まずは煮物からだよ!司大根切って!」 「うん」 和哉の指示で大根の皮を剥いて輪切りにしていく。 その間に和哉はお湯を沸かしながらお米を研いでいた。 「けんちん汁に入れるから少し残しておいて。あと、面取りはしなくていいよ」 「え?面取りしないの?」 「司は面取りするのか。司こそ料理上手なんじゃない?」 まだ子供の頃に読んだ料理の本には野菜は面取りすると綺麗になると読んでからは面取りをしていた。 それをしなくてもいいなら輪切りにするだけだ。 1本は葉っぱの部分を外して全て切る。 もう1本は真ん中辺りで切って下の部分を輪切りにしていく。 「切れたら鍋に入れて火にかけてくれる?」 「これ磨ぎ汁?」 「そう。下茹ですると柔らかくなるんだよ。小松菜茹で終わり!」 和哉が用意した鍋には米の磨ぎ汁が入っており水が乳白色だった。 米を素早く研ぎ終わった和哉は沸かしたお湯に砂を軽く落とした小松菜を入れ、湯がいていた。 それを素早くお湯からあげ、水に浸ける。 「醤油洗いして、味付けしたらおひたしは完成」 「手際がいいね。これ火を入れるよ」 手際よく下準備が進んでいく。 「うわ!これなに?」 「家庭用のフライヤーだよ。うちのご主人様揚げ物大好きなんだ。これ便利なんだよ」 大分料理が進むと揚げ出し豆腐を作ることになった。 油の用意をしていないのでどうするのかと思っていたら、和哉はキッチンの隅にあった小さな機械の蓋を開ける。 中には油が張られており、フライヤーというだけあって持ち手のついた網が入っていた。 「網に下処理した豆腐を入れて、機械にセットすると…」 「本当だ!面白い!」 フライヤーの中の油がブクブクと泡立っているのを見ると、大きめのトースター位の大きさなのに揚げ物が出来るのが面白い。 「司、最近笑うようになったな」 「そう?」 「ここに来たときはいつも緊張の糸が張っているみたいだった」 確かにそうかもしれない。 はじめは信じられない事ばかりで、次に何をされるのか分からない状態で常に緊張していた。 最近では父さんの事はまだ心配だが、生活に慣れてきたのが大きい。 まぁ、未だにバカラのあの甘々な雰囲気にはまだくすぐったさを感じるものの、愛されているのだとは思う。  「よし!煮物はそのまま置いておけばいいし、後は帰ってくる直前に魚を焼いたら終り」 「案外早くできたな」 「やっぱり二人ですると早いな。何か入れるよ」 「ありがとう」 授業の後直ぐに買い物に行って、帰って来たのは3時頃だった筈だ。 今は5時少し前だから本当に早く出来たものだ。 俺と和哉は使った道具を軽く洗い、片付けをするとリビングに移った。 「ふぅ。久々にこんな品数作った~」 「俺もいつもこんなに作らないよ」 「はい。コーヒー」 「ん。ありがとう」 和哉とソファーに座るとカップを渡してくれる。 カップの中を覗くと、本格的なカプチーノが入っていた。 「やっぱり司、雰囲気変わったね」 「そう?」 「うん。やっぱり愛されていると違うのかな」 「ちょっ!マジで今日は何だよっ…」 料理をしたら気が済んだのか、いつもののんびりした和哉に戻っていた。 だからと言って今日は随分と突っ込んだ話をしてくるような気がする。 「前みたいな必死さがなくなって肩の力が抜けたって感じ?」 「俺ってそんなに必死そうだった?」 「うーん。初めて仲良くなったのって、同じ授業取っててグループ作れって言われて隣に座ってたからでしょ?」 「うん」 そう言えばそんな事もあったな。 選択した授業の教授は凄く面白い授業をすることで有名な人だった。 初日は授業の内容の説明だけということで隣の席の人と自己紹介をするようにいわれたのだ。 その時に隣の席だったのが和哉だ。 「あの時から最近まで、自分が頑張らなきゃ~ってオーラが出てたんだよね。他の奴は分からなかったみたいだけど」 「そうか。俺はイケメンなのに、話したらのんびりしてそうな奴だなって思ったよ」 「うわー。なにそれ。それ言うなら司だってイケメンだよ」 「何だよ嫌みかよ」 「本当だってー」 2人で改めて第一印象とかを思い出すと笑ってしまった。 言われて見ればこの生活を始めた頃よりは大分肩の力が抜けた気がする。 それもバカラとのあの生活のお陰かと思うと少し気恥ずかしい。 「そう言えば、龍二が出掛けてるって珍しいな。預かってるんじゃないのか?」 「ん?バカラ様の知り合いのところに出張だよ」 「出張?」 「デリバリーって言った方が正しいかな?」 和哉の予想外の言葉に言葉が詰まってしまう。 デリバリーとはつまりそういう事なんだろうとすぐに想像がついた。 あの子も色々大変だとは思うが、俺も少し前まで同じ立場だったので俺にはどうすることも出来ないのが分かってはいるがもどかしい。 バカラに進言することもできるだろうが、俺が何か言ったところで龍二の現状は変わらないだろう。 「りゅうくんも大変だって思ってるんでしょ?大丈夫。ちゃんとうちに帰ってくるから」 「ん?」 「りゅうくんは暫定的にうちの子だから」 「そ、そうなんだ」 良かったのか良くないのかは分からないけどとりあえず龍二にも帰るところがあるようでよしとしよう。 俺が考えても分からない事だろうからそれ以上考える事を放棄した。 それから、和也と他愛ない話をして過ごした。 「そろそろ魚焼くかぁ」 「え?どこ行くんだ?」 「んー?」 時計を見ると、まもなく7時になろうという時間だった。 冷蔵庫から出した魚を持ってベランダの方に行く和哉に思わず驚いてしまう。

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