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第3話

 麻湖幼稚園でもハロウィンパーティと銘打ったイベントが開かれ、魔女や吸血鬼などに仮装した子供たちが楽しそうに歌ったり踊ったりして過ごした。愛らしい子供の変装した狼男はとてもかっこいいけど、本物がここにいるなんて誰も想像しないだろう。  初めて自分の醜い姿を見てしまった時はあまりの絶望でそのまま死んでしまいたいと思った。だけど悲しいかな、呪われた化け物は死ぬことさえかなわない。    誰の目にもつかない森の中で醜さを隠しながら息を殺して生き延びてしまった。いったい自分が何年生きているのか、もうわからない。いつこの体が朽ちてくれるかも。  だけど今は、このまま生きていたいと思う。柊先生を見つめていられる間は、せめて。  光の輪の中で天使は物語を紡ぐ。手にした本の表紙は繊細な細工が施されずいぶんと年季が入っているようだった。その重厚な煌びやかさがとても彼に似合っている。 ___昔々のお話です、あるお城に一人の王子様がいました。  しんと静まり返った大ホールに彼の声が優しく響く。聞き入っているのは園児だけじゃなく大神もほかの先生たちもみんなだ。物語を追いながらその世界へと足を踏み入れていくようだった。 ___ある時王子様は森で迷子になってしまいました。あたりはどんどん暗くなっていきます。月が昇り始めたころ、王子様は一軒の家を見つけることができました。  真っ暗で獣の息遣いが聞こえる森の中、一人さまよう王子はどんなに心細かっただろう。臨場感のある物語にゴクリと息をのむ音まで聞こえてきそうだった。 ___「どうぞゆっくり休んでいきなさい」その家に住む老人が優しい声で言いました。「おなかもすいているだろう。ご飯もお食べ」  なんて親切な人。困った時に差し伸べられた手はとてもありがたく心強い。だけど、その手は本当にとっていいものなのか?

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