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第4話

 大神は背中に嫌な汗をかき始めていた。遠くの記憶が呼び覚まされていくような感覚。危険だ、早く逃げろと本能が叫びだそうとしている。 ___おなかがいっぱいになった王子様は急に眠くなってしまいました。「疲れたのだろう、ゆっくりお休み」ベッドを借りた王子様はぐっすりと眠ってしまいました。  子供たちはぎゅっと手を握り締めて物語の中にはまりこんでいく。誰も一言も声を発しない緊迫感の中、柊は視線をあげ大神を見た。  いつもの穏やかなものとは違い、細められ瞳孔がギュウっと絞られていく獣に似た瞳。大神は弾けるように立ち上がった。その瞳を知っている。全身の毛が逆立ち、ふうふうと息が荒くなる。  だが柊は、ふ、と笑みをこぼしもう一度目を伏せた。目元のほくろに影が落ちる。それはこの世のものとは思えないほど、蠱惑的な色を発する。 「大神先生」  腰を上げた大神を注意するように教頭先生が服を引っ張った。我に返る。 「座って!お静かにねがいます」 「あ、すみません……」  まだ心臓がバクバクと脈打っている。あの優しい柊先生が怖いなんてどうしてしまったのか。大神もこの物語に引き込まれすぎてしまったということか。自嘲気味に口元を上げると、少しだけ落ち着いてきた。  そうだ、怖いものなんかあるはずがない。この中で一番怖い存在になりえているのは大神自身だというのに。

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