＿＿＿朝になって目を覚ますと王子様は何かがおかしいことに気がつきました。自分の腕がもじゃもじゃの毛におおわれているのです。叫んだ声は動物の鳴き声でしかありません。鏡に映った自分の姿を見たとき、王子様は驚きました。なんと狼の姿になった自分がそこにいたのです。 　再び大神は悲鳴を上げそうになった。 　柊が読み聞かせている物語。それは靄の底に沈みかけている遠い記憶の扉を激しく叩く。思い出せない。苦しい。だけどこの物語は大神のものだということが分かる。 　喉の奥がグっと音を立てた。 ＿＿＿あの親切な老人は怖い魔法使いだったのです。王子様は狼になる魔法をかけられてしまいました。急いで逃げ出すその姿はまるで狼そのもので、駆ける脚は早く地面をけります。とがった爪の先が地面をかく。叫びはただの遠吠えにしかならず、王子様は泣きながらどこまでも走り抜けました。今でも森に入ると狼の鳴き声が聞こえます。それはあの王子様の哀しみの声なのです。 　誰もいないかのような静寂がホールに沈殿していた。子供たちはじっと柊を見つめている。 「はい。今日はここでおしまい。ハロウィンの今夜はたくさんのおばけがあちこちにいるからね、みんないい子にして早く寝るんだよ」 　ニコリと麗しい笑顔を見せると柊は本をぱたんと閉じた。その音に合わせたかのように、子供たちがはあ、っと息を吐く。 「先生こわかったよお」 「狼いるの？」 「悪い魔法使いやっつけてやる！」 　騒ぎ出す園児の中に狼男のコスチュームの男子がいて、その子は泣きだしてしまった。エグエグとしゃくりあげ鼻水を垂らしながら、自分が狼の呪いをかけられてしまったのかと怯えている。