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第9話
突然の言葉に大神は首を傾げた。さっきの話の続きだろうか。
「柊先生がですか? 悪い魔法使い」
セクシーな魔法使いコスプレを頭に描いてしまい、思わず鼻息が荒くなる。似合う、似合いすぎてたまらない。だけど柊はそんな大神の妄想に気がつかず、話をつづけた。
「気になりませんか? さっきの物語。なんで王子は狼にされてしまったと思いますか?」
「それは……運が悪かった?」
まるで大神のように。
なるほどとうなずきながら柊は腕を組んだ。
「こう思いませんか……魔法使いは一人で寂しかったから、仲間が欲しかった」
「仲間ですか?」
「はい、ずっとそばにいてくれるような……ペットとか」
突拍子もない言葉に大神は笑った。ペットが欲しくて人間を狼に変えてしまった魔法使い。なんてシュールな物語だ。
「それ面白いですね」
「面白い?」
「はい。俺が王子だったら柊先生のペットになってもいいかも」
こんな人のペットになってそばにいられたらそれはそれで幸せかもしれない。一日中離さずに近くに寄り添い見つめていたい。
だけど柊はふいに真顔になると大神の前へと足を進めた。こんな至近距離は初めてで、大神ののどがゴクリとなる。ちょうど鼻の辺りにある髪の毛から甘くていいにおいがしてきて、思わずクンクンと嗅いでしまった。イヌ科だけあって鼻はいいのだ。それにしても同じ男とは思えないくらい美味しそうな香りだ。
蕩けるような心持でいたら、いきなり壁にドンと追い詰められてしまった。腕で大神を囲いながらのぞきこんできた柊はいつもの彼ではなかった。
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