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④
(そうだ。今は仮装してるんだった。声さえ出さなきゃバレないだろ)
佑月はそっと目的の人物を探す。背が高く、独特な空気を纏う男は直ぐに見つけることが出来る。タキシード姿はどの男性よりも抜群に様になっており、セクシーだ。佑月の最愛の男、須藤仁は多くの人に囲まれていた。資産家の娯楽パーティーにも顔を出すという事は、何かしら須藤にとって益のあるものなのだろう。佑月はなるべく須藤を見ないように仕事に集中する事にした。僅かな視線にも鋭敏に感じ取ってしまう須藤には、少しの油断も禁物だ。
「シャンパン頂ける?」
「はい」
仮面舞踏会から飛び出してきたかのような煌びやかな婦人に声を掛けられ、佑月は笑顔で手渡そうとする。しかし何故か婦人はグラスを受け取らず、不意に陶然とするように頬を赤らめている。しかも婦人の視線が佑月の頭上を越えたところにある。佑月は怪訝に思い後ろを振り返った。
「……っ」
驚き過ぎて佑月はトレイに乗せたグラスを危うく落としかけたが、伸びてきた手によってそれは免れた。だがトレイはそのまま佑月の手から奪われてしまい、近くのテーブルへと置かれてしまう。
皆の注目を一身に集める男、須藤。先程の婦人はもう目がハートだ。佑月はなるべく須藤の顔を見ないように軽く頭を下げ、トレイを取り返そうとテーブルへと近付こうとした。
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