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「来い」 「っ!?」  不意に佑月は手首を掴まれ、引っ張られる。会場内の空気が一気にざわつくが、須藤は周囲の事など頭にない。 「あ、あの……私、仕事なので困ります」  声は出したくなかったがそうもいかず、佑月は自分の中での最大限の高音を出す。かなり気持ち悪いものがあるが、まあまあ女とも取れる声が出ていた。  須藤が立ち止まり佑月へと振り向く。バレたのかと思ったが、須藤の目は何を考えているのか佑月には分からなかった。 「お前を一目見て気に入った。可愛がってやるから来い」  甘ったるい低音を響かせ、佑月の耳元で囁いてくる。佑月の腰が一気に痺れるが、慌てて身を引く。そして同時に胸にモヤモヤとするものが巣食う。 「で、ですから仕事中なので……」 「バイトか?」 「……はい」  須藤が会場内に視線を走らせている。その顔を佑月は複雑な気持ちで見つめた。  どういうつもりなのか。本当に佑月を女だと思って声を掛けてきたのか。こんなゾンビのような顔をしているのに、あの須藤が一目見て気に入ったなど有り得るのか。しかし佑月と出会う前の須藤は、こうして気に入った女をいとも簡単に手に入れてきたはずだ。今夜は異色とも言える女と楽しむのも悪くないと思ったのか。  ズキズキと胸が痛みだす。 「今日のバイト代の倍を出す。それなら文句ないだろ?」 「倍? 今日のバイト代、百万ですけど」  佑月はムスッとして答え、そして陸斗らに救いを求め姿を探す。直ぐに陸斗を見つけられたが、何故か陸斗に〝ここは大丈夫!〟と口パクされて頷かれてしまう。陸斗から見れば、〝須藤と佑月〟なのだから仕方ないのかもしれないと佑月は肩を落とした。  

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