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⑥
「なら俺は三百万出そう」
須藤がとんでもない金額を口にしたため、佑月は愕然とする。だが直ぐに心がスっと冷えていく感覚があった。そっちがその気なら、自分の前で浮気をした事を後悔させてやると佑月は須藤へと微笑んだ。
「本当ですかぁ? 嬉しい。ならついて行こうかな」
今の目の色では効果がないかもしれないが、佑月は上目遣いでそう言う。しかしどうやら効果があったようで、須藤は妖艶に口元を緩めてきた。近くにいた女性から「羨ましい」という声が上がる。佑月は佑月でそんな顔を他人に見せるのかと悲しくなる中、ホールから出る際に陸斗らに小さく謝罪のポーズを取った。ゾンビの顔をした三人は笑顔で送ってくれるが、それも複雑な胸中であった。
「ボス……そちらの方は?」
ホテルの玄関口で待機していた真山は、佑月を見て須藤に問う。表情に出さないところはさすが真山といったところだが、不審に思っているのは間違いないだろう。初めて会った時のような冷たい視線を向けられているため。
「あぁ、可愛いだろ? 気に入ったからこのまま連れて帰る」
「連れて帰る……でございますか?」
ここで真山の表情が驚きに変わった。戸惑いながらも、主人の命令には背くことなど出来ない真山は、後部ドアを開け恭しく頭を下げた。須藤が先に乗り込むと、声を掛けられる前に佑月は真山の顔は見ずに後部座席へと身を滑らせた。
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