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⑧
「んっ……」
機嫌が悪いはずなのに、口内の愛撫は丁寧かつ淫靡で、相手の気持ちを高めるための愛情さえも感じた。そう、いつも佑月と交わす激しくも甘いキスと全く同じものだった。胸が締め付けられる苦しさで、佑月は必死でもがく。
「暴れるな」
キスを解いた須藤は不満全開に言うと、佑月の両手首をそのまま強引に引っ張り、リビングへと連れていく。それに反抗し、佑月は自分の持てる力を最大限に発揮し、須藤の拘束を解こうと腕を振った。しかしこの男の力に勝てるわけがなく、余計に力を加えられてしまう。
「痛い、離せよ。この浮気者」
「……浮気者?」
佑月は須藤を睨めつけ、女の真似事は止めて地声で唸った。それなのに須藤は全く驚く様子を見せず、それどころか佑月の言った言葉が不可解とでも言いたげに眉間の縦じわを深くしている。
「そうだろ、仁」
ここまで言えば佑月だと正体が分かるはずだ。狼狽える須藤が見れると思った佑月だったが。何故か須藤に鼻で笑われてしまい、逆に佑月が戸惑うはめになった。
「……なに笑ってんだよ」
「お前の仕掛けた事に乗ってやっただけだが……浮気者扱いされるとはな」
「え……? 俺の仕掛けた……」
須藤の目が佑月を真っ直ぐに射抜く。逸らすことも許されないような、深く昏い目。冷や汗が背中に流れるような感覚に陥り、佑月は今すぐここから消えたい思いに駆られた。
(ヤバい……これはヤバいやつだ。逃げたい)
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