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第10話
三人の大柄な男衆が、アザミを囲んでいる。
それでもアザミの唇から笑みは消えなかった。
複数人を相手にするのが初めてというわけでもないし、いまさら犯されることに抵抗などない。
強いて言うなら、男娼である自分が、金銭という代償もなく男たちに嬲られるのが、屈辱であった。
けれどアザミは、輪姦なら耐えられる、と思っていた。
壊すな、という楼主の言葉があるので、極端に乱暴に体を開かれたりはしないはずだ。体力的にきついというだけで、男衆が何人居るのかは知らないが、数日も我慢すればそれで終わる話だ、と。
そう高を括っていたアザミの前に、翁面がにじり寄ってくる。
彼の手にある陶器を見て、アザミの頬が引き攣った。
あの、青磁の容器には、いやというほど見覚えがあった。
淫花廓 へ来たばかりの頃。
性技を仕込まれる際に、それは都度使われたものだった。
しずい邸の他の男娼がどのように体を開かれたのか、アザミは知らないが、アザミの場合はまず、快感だけを覚えさせられた。
アザミにとっての初体験が、金貸しの男たちから受けたレイプだったため、翁面の指に無意識に固くなってしまう体をほぐす名目もあったのだろう。
アザミの教育係は、アザミにあの……いま、アザミの目の前にある容器から、蜂蜜のようにとろりとした液体を、性感帯のすべてに塗り込んだのだった。
あれは……快感という名の地獄であった。
淫花廓オリジナルの媚薬で、後遺症もなければ常習性を起こすものでもない、と説明を受けていたが、痒いような熱いような刺激にアザミは悶え、与えられるすべては快感となり、ディルドを咥えてむせび泣いたのを、覚えている。
その、黄金色にきらめく粘度のあるそれを。
翁面が、ことさらゆっくりと指に掬い取った。
「そ、それは嫌だ」
アザミは抵抗を示して身じろいだが、両手は天井からの縄で縛られていて、おまけに男衆が左右から肩を抑え込んでくるため、ほんの僅かも逃げることが叶わない。
翁が黒衣の懐から縦長のケースを取り出した。
フタを開き、中の物を摘まんで持ち上げる。
アザミにも見えるように掲げられたのは、銀色の棒状のもので……表面にはポコポコと凹凸がついていた。
ステンレス性のそれは……尿道用ブジーである。
翁はそこに、たっぷりと指に取った液体を垂らした。
ぬらぬらと、蜂蜜をまぶされたようにそれが光る。
アザミは首を振った。
「や、やめろっ」
自由になる足を振り上げて暴れようとしたアザミを左右の男衆が容赦のないちからで抑え込んだ。
アザミの足の間に、翁面が屈みこみ、くたりと垂れた性器を手に持った。
ぬるり、ぬるり、と媚薬のついた手でペニスを刺激された。
アザミのそれが芯を持つ前に。
くち……と先端の孔を翁が弄り、ブジーが埋め込まれてゆく。
「ああっ、やっ、やめろっ」
ブジーについた液体を、尿道に馴染ませるように、コリ、コリ、と内側を擦りながらピストンを繰り返し、徐々に深く深く入ってくる。
「ひっ、やっ、やっ」
ビクっ、ビクっ、と腰が跳ねた。
ブジーの先端が、トン、と一番感じる場所を突いた。
「んあっ、あっ、あっ」
トン、トン、と立て続けに前立腺を刺激され、アザミは全身を震わせた。
ブジーを埋め込んだ男衆が、輪っかになった持ち手から指を放した。
と同時に、アザミを抑えていた男衆も離れ、アザミの手首に絡みついてた縄が解かれた。
アザミは、……耐え切れない感覚がペニスの内側から湧きだしてくるのを感じた。アザミの性器は早くも勃起している。
擦りたい。擦りたい。
解放された手ですぐに陰茎を扱こうとしたが、左右の男衆がそれを阻む。
床に敷かれた薄い布団の上に、アザミは横たえられた。
「折檻を始めましょう」
翁面のその言葉を合図に、アザミの足が大きく割られた。
露わになったそこに、とろり、と透明な液体が垂らされる。蜂蜜色ではないので、これはただのローションだろう。
筋骨逞しい怪士 の面の男が、己のペニスを手淫しながら、アザミの濡れた孔に先端を当てた。
客に抱かれてからさほど時間の経っていないアザミの後孔は、ひくり、ひくりと蠢き、その切っ先に吸いつく。
「アザミさま、失礼します」
男衆が、低く囁いて。
ずぶ……と男根が侵入してきた。
「ああっ、あっ、あんっ」
アザミの細い腰がうねった。
ペニスを触りたい。あのブジーで中を擦りたい。
その思いが強すぎて、後ろを犯されることに意識が回らない。
しかしアザミの両手は、別の男衆によって頭上でひとまとめにされ、性器に触れないよう戒められているのだった。
「さ、さわってぇっ、ま、前も、さわって、あっ、あぅっ」
悶えながらそう乞うたアザミの言葉は、黙殺された。
パン、パン、と肉のぶつかりあう音を立てながら、男衆が腰を振る。
奥を抉られて、アザミの目から涙が零れた。
「ああっ、あんっ、あっ、あっ」
激しいピストンに、腹が破られそうだ。
けれどアザミの中は悦んで男に絡みついている。
うねりながら牡を引き絞るアザミの内部の締め付けに、アザミを貫いている男が呻いた。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き、男衆の律動が早くなった。
「ひぁっ、あっ、あっ、あっ」
揺さぶられるままに、アザミの唇から嬌声が漏れる。
触られないまま男の突き上げに揺れているペニスが、熱くて、切なくて、めちゃくちゃにこね回してほしかった。
「さ、さわって……あっ、あんっ、さわってぇ」
すすり泣くように、アザミは訴えたが、陰部に伸ばされる手はなかった。
男衆の呻き声が大きくなる。
ばちゅんばちゅんと激しく貫かれ、ペニスの揺れも大きくなった。
動く度に、ブジーの角度が変わり、尿道が刺激されてたまらない快感が全身に走った。
アザミの反応などは少しも忖度せずに。
男衆がアザミの孔で自慰でもするように腰を叩きつけ、ぶるりと震えながら逐情した。
びゅっ、とゴム越しに射精された。
ナマでの挿入ではなかった、ということはなんの慰めにもならない。
アザミは尿道を塞がれているため、そこから精液を放出することは叶わないのだ。
「だ、出させて……出したい……あっ」
ずるり、とアザミの中から男が出て行くと、2人目のペニスがすぐに挿し込まれた。
半分ほど浮いたブジーを、ついでのような仕草で、トン、と奥へと戻され、ビクっと腰が揺れた。
「くっ……きっつ……」
独り言ちるように呟いた男衆が、ゆるゆると腰を使い始める。
張り出したエラの部分がアザミの前立腺を刺激してくるのに、アザミは腹部を波打たせて悶えた。
「ああっ、だめっ、イ、イくっ、イくぅっ」
後ろだけで、アザミは達した。
ドライオーガズムを味わっている間も、男は容赦なくアザミの後孔をぐりぐりと責めてくる。
この男はブジーが少し飛び出る度に、律義に押し戻してくるので、前後からの刺激にアザミの痙攣が止まらない。
「やっ、やめっ、あっ、あぅっ」
長い髪を振り乱して、アザミは啼泣した。
アザミの視界の端で、翁面がごそりと動き、蜂蜜色の液体をまた指に掬う。
男はそれを、アザミの果実のように色づいた乳首へと、塗りつけようとした。
「やだっ、も、もう、やだっ、やめてっ、あっ、ああんっ」
必死に翁の手を避けようともがくのに、アザミの両腕を抑えつけている男衆はびくともしない。
「アザミさまっ」
誰かが、叫んだ。
アザミは濡れた目を動かし、声の主を探した。
鉄格子を両手で握り、ガシャン!とそれを揺らした怪士の面の男が、アザミへと切迫した声を向けてくる。
「アザミさまっ、セーフワードを言ってくださいっ」
セーフワード……。
快楽に蕩けた思考で、アザミはその言葉の意味を考える。
そうだ。
セーフワードは有効だ、と楼主が言っていた。
アザミがひと言、それを口にすれば。
男衆は、アザミに手を出せなくなる。
セーフワードを言った男娼をまもることが、男衆の第一の使命であるからだ。
セーフワードを、言いさえすれば……。
しかしアザミは唇を引き結んだ。
翁面の指が、ぬるり、と乳首の上を這った。
「ひっ……あ、ああっ」
アザミの唇の隙間から、喘ぎが漏れた。
けれど、たすけて、という言葉は。
その言葉だけは、口にするな、と自分を戒めた。
「アザミさまっ、セーフワードをっ」
「控えろ」
ぴしゃり、と冷え冷えとした声が怪士の声に被った。
「出すぎるな。おまえはここに居る以上、男衆だ。男娼とは個人的に接触しない。男衆の鉄則だろう。おまえも男衆なら、ここの決まりを遵守しろ」
壁にもたれかかったままの姿勢で、紅鳶 が冴え冴えとした目を怪士へと向けていた。
格子を握る男の太い指の関節が、白くなるほどにちからが込められている。
カタカタと震える怪士の手を見ないように、アザミは瞼を伏せた。
言ってはいけないような言葉が、唇から零れそうで。
アザミは縋りつくように、湧き上がってくる快楽を追った……。
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