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第2話
またバスに乗り移動する。
遊園地はそんなに遠くなかった。
遊園地はハロウィン一色に染まっていた。
多くの家族連れやカップルで賑わっている。
「見ろよ、瑞希」
翔真が入り口の近くの立て看板を指さす。
「17時から仮装パレードがあるぜ。『仮装の衣装お貸しします』だって。せっかくだから参加するか?」
「いいよ。楽しそうだ」
パレードまではまだ時間があった。
俺たちは先に他を回ることにした。
さすがというか、翔真は絶叫系の乗り物が大好きみたいで、ジェットコースターやフリーフォールに付き合わされた。
俺も絶叫系の乗り物は苦手じゃないはずなのに、久々に乗ったせいかぐったりきてしまった。
ベンチでひとり休憩していると、翔真がジュースを買ってきてくれた。
俺に手渡して、隣に座る。
「大丈夫か、瑞希?」
一応心配してくれるけど、その顔はにやついていて、完全に面白がっている。
なんか悔しい。
「これでも前は平気だったんだ」
「そういうことにしといてやるよ」
「ホントだって」
「そうムキになるなよ、瑞希。可愛いな」
「可愛いとか、やめろよ」
翔真はまだ可笑しそうに笑っている。
「じゃあ、休憩したらあれに乗ろう」
翔真が指さしたのは観覧車だった。
二人で観覧車のゴンドラに乗り込む。
日はだいぶ傾いていて、景色は茜色に染まっていた。
遠くに海も見える。夕陽がきらめいて綺麗だ。
密室で翔真と二人きり。
急にドキドキしてしまう。
「そっち、行っていいか?」
翔真が俺の隣に移動して座る。
すぐに手を繋がれた。
付き合っていることがバレないよう、いつもお互い一定の距離は保って行動するから、外で密着する機会はほとんどない。
気恥ずかしいけど、嬉しい。
ゴンドラは一番高い所に差し掛かっていた。
翔真の手が俺の前髪をかきあげる。
顔が近づいてきて、そっとキスされた。
観覧車の最上部で。
俺たち恋人同士なんだ。
それなのに、何でこんなに不安になるんだろう?
翔真はモテるし、俺じゃなくてもいいんじゃないの?
「翔真って、慣れてるよな。こういうの」
「慣れてるか?けっこういっぱいいっぱいだけど」
翔真は苦笑気味に笑う。
もう一度キスされる前に。
「俺の前にも誰かと付き合ってたの?さっきの娘 とか?」
俺は言葉をすべり込ませた。
はっとしたように翔真の動きがとまる。
至近距離で交わす視線。
翔真が真顔だったから、確信を得てしまった。
またズキッと胸の辺りが疼く。
「そうなんだ」
「……参ったな」
翔真はキスをあきらめて、一度だけ上を仰いだ。
「彼女とは……中3の時、半年ほど付き合ってた。でも、フラれたんだ」
「二人、似合ってたよ。またよりを戻そうとか、言われた?翔真には、俺よりあの子みたいな可愛い子の方がいいんじゃないの?」
「彼女とはとっくに終わってる」
観覧車が下に着いて俺たちは降りた。
俺は翔真を待たずに先を歩く。
何だか無性に腹が立っていた。
ふっかけたのは俺の方なのに。
「待てよ、瑞希。どうしたんだ?」
翔真が追いかけてきて、俺の行く手を阻むように立つ。
「何でもない」
俺の知らない翔真の過去。
あって当然なのに。
翔真に彼女がいた事実は、ショックだった。
「確かによりを戻そうって言われたよ。でも、ちゃんと断った。俺は……」
やっぱり……。
翔真の言葉が、俺の苛立ちに拍車をかけた。
「もっと上手に嘘とかつけないの?そんなの聞きたくない!」
驚いた翔真の表情が、険しいものへと変わる。
「いい加減にしろよ。瑞希が自分で振ったんだろ?」
翔真の怒った顔を見たのは初めてだった。
思わず怯む。
怯んでしまう自分がまた悔しかった。
翔真のことは信じてる。
でも、不安になる。
恋ってこんなにも脆く揺らぐものなんだ。
だだっ子みたいでカッコ悪い。
わかっていたけど、自分でも止められなかった。
「俺、帰る」
俺は翔真に背を向けた。
歩き出そうとする俺の腕を、翔真が掴んだ。
「ちょっと待てよ。帰るなら、送って行く」
「一人で帰れる」
強引にその手を振り払う。
「今は一人がいい。一人にして」
「………わかった」
翔真は何か言いたそうだったけと、静かに頷いた。
翔真は俺の後を追って来なかった。
ホッとする。
出口に向かう俺と、仮装パレードの行列がすれ違う。
本当なら今ごろあの中に混じっていた。
楽しそうな行列を見ないようにして、俺は足早に出口を目指した。
幸いにもバスはすぐに来た。
席に着くと、どっと疲れが出た。
嫉妬だらけでみっともない。
今日を楽しみにしてた。
楽しみにしてたのに。
なんでこんなことになるんだろう。
惨めさに泣けてきた。
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