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第3話

 甘辛い味が消えても、やめられなくて、僕は抱えた膝ごと抱いてくる亮平に抱きすくめられて、いつも見慣れた部屋のいつもの壁際で、初めてロミオじゃない亮ちゃんとキスしてた。  やばいどうしよう。足震える。 「だめ……もうないよ、亮平。食べちゃった」  僕の口の中まで追ってくる亮ちゃんの執拗な半分こに、僕は震えてきて、舌に残る幸せの粉まで舐められた。その後に甘い、たぶん錯覚の味が残る。亮ちゃんのキスの味。 「もっと食べたい」  真面目にねだる声で、僕を抱きしめながら亮平が言った。 「もう、ない……ごめん。買ってこようか……」  真っ赤になったまま、間近にある亮平の顔を見つめて、僕は謝った。亮ちゃんは、にこりともしなかった。 「馬鹿。いいよ」  僕の制服のシャツのボタンを上から順に外しながら、亮ちゃんはたぶん少し怒ってた。照れてたのかもしれない。  その時が僕も初めてだったけど、亮ちゃんだって大差なしだったはずだ。ドキドキした。 「なんで脱がすの」  シャツをはがれて、ズボンのベルトを外されながら、僕はおとなしくしてた。別に嫌じゃなかったせいだ。なんで脱ぐのか、頭真っ白で顔真っ赤だし、何も深くは考えられなかったけど、僕を裸にしようとしてる亮平の手に逆らいはしなかった。 「衣装合わせだろ、聡。脱がなきゃ着れない」 「そうだよね……」  真面目にうなずいたけど、もうだめ。 「だめ、亮平。脱がせないで」  下着まで脱がせてくる亮ちゃんの手首を、僕は握って止めた。  冷静に考えて、僕らは部屋の隅で絡み合ってた。抱えられた両足を割って、亮平が体を入れてきて、たぶん僕は犯される女の子みたい。両足で亮平を抱えてる。  これはちょっと、恥ずかしい。恥ずかしくてドキドキして、僕の体もドキドキしてたはずだ。 「見ないで……」  恥ずかしすぎて、僕は頼んだ。 「下着も衣装? そんなの着るの……?」 「まあ一応あるから」  真っ赤な顔で見上げて聞く僕に、亮平はいつもの真顔で答えた。  おかしいよ、そんなの! そんなの普通着る!? 着ないよね!?  着ないけど普通、でもこのままだと亮ちゃんにパンツ脱がされちゃうし、女の子の可愛い下着とかドレスとか、ニーハイソックスとか着せられちゃうんだし。それはいきなり、あんまり刺激的すぎるから、僕、自分で着る……。  なんでそうなるのか。とにかく僕はその白いレースだらけの、ウサギちゃんドレスを自分で着た。亮平には背を向けたまま。白レースの可愛いショーツに足を入れる時には、さすがに指が震えた。だって恥ずかしいんだもん。  亮平はそれをどんな顔して見てたのか。着終えるドレスの背のファスナーを、閉めに来てくれた。自分で着るのはちょっと大変なビスチェドレスで、背を締め上げる飾り紐の編み上げリボンを、亮平は器用に締めてくれた。 「これな、後ろで締めるの。自分では脱げないようになってる」  静かな声で説明しながら着せて、亮平は優しい手だった。 「別に自分で脱げるよ。後ろに手が回せるから」  僕は恥ずかしくて反論した。 「馬鹿。ちがうよ。俺が脱がせるまで、よそで脱ぐなっていう意味」  リボン結びをぎゅうっと締めて、そこには金の錠前(じょうまえ)飾り(チャーム)がついてた。  知らなかった。亮平がこんな独占欲の強い男だったなんて。 「可愛い」  背後から抱きしめてきて、亮ちゃんは困ったように言った。その息もなんとなく、甘じょっぱい幸せの粉の味。 「食べていいか。聡。食べたい……」  ぎゅうっと抱いて、亮ちゃんは僕に頼んだ。もう頼んでるとしか思えない。何をってとぼける気にはなれなかった。

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