3 / 5
第3話
甘辛い味が消えても、やめられなくて、僕は抱えた膝ごと抱いてくる亮平に抱きすくめられて、いつも見慣れた部屋のいつもの壁際で、初めてロミオじゃない亮ちゃんとキスしてた。
やばいどうしよう。足震える。
「だめ……もうないよ、亮平。食べちゃった」
僕の口の中まで追ってくる亮ちゃんの執拗な半分こに、僕は震えてきて、舌に残る幸せの粉まで舐められた。その後に甘い、たぶん錯覚の味が残る。亮ちゃんのキスの味。
「もっと食べたい」
真面目にねだる声で、僕を抱きしめながら亮平が言った。
「もう、ない……ごめん。買ってこようか……」
真っ赤になったまま、間近にある亮平の顔を見つめて、僕は謝った。亮ちゃんは、にこりともしなかった。
「馬鹿。いいよ」
僕の制服のシャツのボタンを上から順に外しながら、亮ちゃんはたぶん少し怒ってた。照れてたのかもしれない。
その時が僕も初めてだったけど、亮ちゃんだって大差なしだったはずだ。ドキドキした。
「なんで脱がすの」
シャツをはがれて、ズボンのベルトを外されながら、僕はおとなしくしてた。別に嫌じゃなかったせいだ。なんで脱ぐのか、頭真っ白で顔真っ赤だし、何も深くは考えられなかったけど、僕を裸にしようとしてる亮平の手に逆らいはしなかった。
「衣装合わせだろ、聡。脱がなきゃ着れない」
「そうだよね……」
真面目にうなずいたけど、もうだめ。
「だめ、亮平。脱がせないで」
下着まで脱がせてくる亮ちゃんの手首を、僕は握って止めた。
冷静に考えて、僕らは部屋の隅で絡み合ってた。抱えられた両足を割って、亮平が体を入れてきて、たぶん僕は犯される女の子みたい。両足で亮平を抱えてる。
これはちょっと、恥ずかしい。恥ずかしくてドキドキして、僕の体もドキドキしてたはずだ。
「見ないで……」
恥ずかしすぎて、僕は頼んだ。
「下着も衣装? そんなの着るの……?」
「まあ一応あるから」
真っ赤な顔で見上げて聞く僕に、亮平はいつもの真顔で答えた。
おかしいよ、そんなの! そんなの普通着る!? 着ないよね!?
着ないけど普通、でもこのままだと亮ちゃんにパンツ脱がされちゃうし、女の子の可愛い下着とかドレスとか、ニーハイソックスとか着せられちゃうんだし。それはいきなり、あんまり刺激的すぎるから、僕、自分で着る……。
なんでそうなるのか。とにかく僕はその白いレースだらけの、ウサギちゃんドレスを自分で着た。亮平には背を向けたまま。白レースの可愛いショーツに足を入れる時には、さすがに指が震えた。だって恥ずかしいんだもん。
亮平はそれをどんな顔して見てたのか。着終えるドレスの背のファスナーを、閉めに来てくれた。自分で着るのはちょっと大変なビスチェドレスで、背を締め上げる飾り紐の編み上げリボンを、亮平は器用に締めてくれた。
「これな、後ろで締めるの。自分では脱げないようになってる」
静かな声で説明しながら着せて、亮平は優しい手だった。
「別に自分で脱げるよ。後ろに手が回せるから」
僕は恥ずかしくて反論した。
「馬鹿。ちがうよ。俺が脱がせるまで、よそで脱ぐなっていう意味」
リボン結びをぎゅうっと締めて、そこには金の錠前 の飾り がついてた。
知らなかった。亮平がこんな独占欲の強い男だったなんて。
「可愛い」
背後から抱きしめてきて、亮ちゃんは困ったように言った。その息もなんとなく、甘じょっぱい幸せの粉の味。
「食べていいか。聡。食べたい……」
ぎゅうっと抱いて、亮ちゃんは僕に頼んだ。もう頼んでるとしか思えない。何をってとぼける気にはなれなかった。
ともだちにシェアしよう!