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第20話

バーカウンターに備え付けてあった簡単な水道でタオルを濡らし、互いに体を拭って何事もなかったかのように服を着てまた酒を楽しんだ。 3杯目の酒を飲み終えたとき、車が止まる。 運転席と車内をつなぐスピーカーが動いた。 「お待たせいたしました、到着いたしました」 「おお、早いな。今降りる」 彼がいつもの仕事口調で答える。 「着いたぜハニー、荷物を下ろそう」 俺に振り返って軽くウインクしてくる。仕事モードのときとプライベートのときとで別人みたいな顔をする。 「あぁ、これを持ってくれ。キャリーは俺が持つから」 しまいに俺にサイドバッグを渡してきたくらいにして、自分は大型のキャリーを持つ。こいつは本当に俺に重いものを持たせようとしないのだった。別荘の時同様のお姫様扱いだった。 結婚してからも一貫として俺のこと大切に思ってくれていて、嬉しい反面むず痒い。日本で育って日本で生活しているから、ずっと同じテンションで大切にしてくれるという愛情表現が、恥ずかしいことみたいに感じてしまって未だになかなか慣れないんだ。 その通りだから俺からベタベタ甘えるのはベッドの上くらいしかないけど、日々の彼の行為の端々から俺を想う強い愛情を感じている。 結婚して1年弱。キャリー抱え車を降りる彼の背中を見て、またなんとなくむず痒くなるのだった。

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