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第21話
車を降りると、途端にむせかえるような緑の匂いがした。嗅ぎ慣れなくて眉をしかめる。
目の前には背の高い竹林の遊歩道が、石畳を伴ってくねりながら奥まで続き、頭上は青空と葉の触れ合う音が響き合っていた。
「すげ……」
それ以上声が出ない。緑色一色の世界に、リムジンの黒が良く映えていた。
「おぉ、すごいなぁ、サムライの出てくる映画に出てきそうな景色だ。美しい」
外国育ちの彼にもこの整然としたすごさが伝わったらしい。あっけにとられている俺の隣に並んで立って、長く続く遊歩道を眺める。入り口に立つと、それこそ本当に映画の主人公になったような気分になる。まさに非日常の入り口に立ってるって感じ。
「ハニー、少し歩くぞ。車はこれ以上先には進めないんだ」
そうだろうな。遊歩道じゃなければ車もいいだろうけど、どっちにしろこの景観を車で通り過ぎるなんてもったない。
「お前ずっとキャリー持つの?」
石畳で車輪がダメになりそうだと思いながら尋ねたのだが、彼は違う意味に取ったらしい。
「重い物は持たせたくないんだ、大切なハニーに」
「だっ……だから、そういうことじゃなくて」
「じゃあどういうことなんだ?」
まっすぐな目で見つめられながら言われると、なんかもうそのまま勘違いさせておいてもいいかもしれないなんて思えてきたりして。
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