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第24話

彼の心の傷を思いやる程の時間もなく、茅葺き屋根の真下に来た。太く黒ずんだ木の柱とひび割れた漆喰の壁が、見るからに年代物という感じだった。 門の奥まで石畳が続いていたが、その両端は苔の敷き詰められた青々とした地面が広がり、苔の合間に紅葉や松が植えられている。そこだけでテニスコートくらいの広さはあると思う。 さらに奥に、大きな日本家屋が鎮座していた。 (噂のホームページすらない旅館か……) ぱっと見映画のセットみたいだなと思ったけれど、そんなちゃちい例えなんか通用しないくらい、重みのある雰囲気が漂っていた。濡れ縁の太さや渋さ、玄関の引き戸のくすんだ感じ、宮大工が作ったとしか思えない飾りのついた屋根。 本当にタイムスリップしてきたんじゃないだろうか。 「本当にサムライいないのか?」 彼がちょっと拗ねたように言うけど、本当に侍でも出てきそうだった。 「サムライはいないから、せめて雰囲気だけでも楽しもう、いるかもしれない体で」 あっけにとられながらも適当に流したところで、門の奥に踏み出す。 旅館の玄関から、誰かが出てきた。 「……誰だ?」 着物を着ている。薄い桜色の着物。女性だろうというのはなんとなくわかるけど、ちょっと遠くて顔まではわからない。旅館の人だと思うけど、彼は着物を見ただけでちょっと興奮していた。

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