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第31話

「娼婦なのに憧れの的?」 あまりピンと来ていないみたいだ。 「当時の遊女たちは、今で言うテレビスターのような役割も担っていたのです。遊里というのはとてもきらびやかな世界でしたからね。彼女たちの生み出す着付けや化粧、髪型などファッションは、遊女ではない女性たちに美しくて魅力的なものとして受け入れられたのです。若い娘さんたちがテレビスターに憧れるのは、今も変わりありませんわね。しかも聡明な女性のファッションともなれば、憧れるのも当然かと」 「なるほど」 彼なりに理解したらしい。俺も流石にうまく説明できない知らない世界だから。 「俺も世界の娼婦の事情を知っている方ではないが、日本の世界観はなかなか個性的のように感じる」 ちょっと仕事の時みたいな感慨深そうな顔をしていた。しまいに、何か仕事で使えるだろうか、なんて言い出す始末で。 「デリケートな世界だから、ちゃんと勉強してからだな。遊女っていうのはほとんどが親や家族に捨てられた女の子なんだから、悲しい歴史の方が多いんだからな」 添えるみたいにつっこむと、軽く咳払いしてもちろんさ、と言った。 「性産業には常に貧しさが隣り合わせになっている。これはどの国にも共通して言えることだからな」 仕事に役立てるにしろそうじゃないにしろ、彼のことだから、安易に知ったかぶりはしないと思うけど。

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