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第35話

「お前日本人みたいだな」 その仕草がなんだか面白くてふっと笑うと、なんだか懐かしい感じがするとまで言い出す。 「俺の前世は日本人だったのかもしれない」 真面目な顔をして言うから本当に吹き出してしまった。 「なんで前世なんだよ、変なこと言うなぁお前」 「ハニーはあまりそういうのは信じない方か?」 「考えたこともねぇよ」 その分だと、彼はいわゆるスピリチュアルなものに、あまり抵抗はないようだ。 「きっと俺たちは、前世からずっとつながりあっていたんだろう。そうでもなきゃ、あんな運命的な出会いしなかっただろう」 「またそういうこと言う……」 堂々と惚気られるのにはまだ慣れない。 「こちらです、どうぞ」 橋を渡った数歩先に、幅の広い襖が見える。 まだ前室の風景の興奮冷めやらぬままなのに、女将が開けた襖の奥は、さらにまた違った趣向の和室が広がっていた。 「イロリ!」 彼の方が先に反応した。目の前に囲炉裏、太くて重厚な黒い柱と梁が目を引く。壁の色は全面真っ白で、一気に昔話の世界の中に放り込まれたような気がしてくる。奥は障子で仕切られていた。 女将がその障子に手をかける。 「こちらが当館自慢の眺望でございます」 控えめにゆっくりと開ける。 青い山。段々と連なって、奥の方なんか空と溶けあって、境目がわからないほどだった。

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