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第36話

「すげぇ……」 瑞々しい山の景色。見ているだけで肺の中から綺麗になりそうだった。それにしても随分山奥に来たもんだ、とも思った。 「素晴らしいな。美しい山だ」 吸い寄せられるように、彼が窓の方へ歩いていく。 「海外の山の景色とはまた違う眺めだ。繊細で深みがある。水墨画の景色のようだ」 「お分かりになりますか」 彼の言葉に、女将がパッと表情を明るくする。 「この景色は建物を移築する際に、当時の店主がこの景色を気に入って、ここに移築することを決めたのです。この部屋から見えるように設計したといいます」 「へぇー」 たしかにこの景色だったら、一番の目玉にしたい気持ちはわかる。この部屋の作りでこんな景色が見られたら、まさに天国にいるみたいなものだろう。 「こちらの眺望は、外からもご覧いただけます。この障子を開けますと、デッキがございます」 さらにぐっと障子を開ける。女将の言う通り、柱と同じ渋い色をしたデッキがあり、そこに大きめのカーキー色のソファーとリクライニングチェアが置かれていた。なんだか優しい香りもする。 「うわぁ、超贅沢じゃん」 本当にこんな旅館存在するんだろうか。いや、存在してるからここにいるんだけど。 「そのままお風呂の方にもつながっております」 山に向かって右手の方に竹垣があって、簡単なドアが付いていた。開けると、奥に檜囲いの大きな浴槽が見えた。

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