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第38話
「お部屋の方はご満足いただけますでしょうか」
女将はまるで自分が建てたみたいに俺たちに訪ねてくる。
「もう、満足も何も凄すぎて」
言葉が出ない。これじゃあ、本当に政治家や財界人しか来られないわけだ。値段なんて野暮なことを言うわけじゃないけど、俺みたいな一般市民がいくら金積んだところで来られるようなところではない。
「本当に素晴らしい、まるでヤマトナデシコの妻の美しさをそのまま表現しているような旅館です」
最近またなんだか不思議な日本語を覚えた、うちのヤツみたいな本当の金持ちじゃないと無理だ。
「大和撫子ってなんだよ、マジ意味わかんねぇ言葉覚えやがって」
「美しくて芯のあるものに対する最上級の褒め言葉だと聞いた」
「そうだよ、ただし女に対してだけどな」
「なに、心配するな。俺にしてみればお前は十分素晴らしいレディーさ」
「そうだろうな、そうじゃなきゃ人のこと恥ずかしげもなくハニーなんて呼ばねぇよな!」
売りことばに買いことばなんだけど、こいつがスラスラと口にする惚気の数々に、完全に言い返すことは出来ない。いつも俺が恥ずかしくなって負ける。
俺たちのやり取りを、女将はやっぱり袖で口を覆って笑うのをこらえながら見ているのだった。
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