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第39話

女将が部屋を後にして、やっと部屋の中の様子も何となく見慣れてきた頃、外はかなり綺麗な夕焼けでどの山も真っ赤に染まっていた。 季節はもう初夏を迎える。外に出ると、木の匂いをまとった少しぬるい空気が、吸っただけ体の中を巡っていく。デッキのソファーに腰掛けた。 「本当に気持ちいい」 ビールを飲んだ時みたいな、深い息を吐く。こんなに自然を近くに感じながら、静かに過ごしたことなんかなかった。どこかの山から、山鳩の声が響いてくる。 「俺の選んだ宿は気に入ってもらえたか?」 自然の音に耳を傾けていると、彼が隣に腰掛けて来た。ぺたりと寄り添う。 「超気に入った。お前の別荘くらい気に入った」 「そりゃあよかった。お前に喜んでもらわなきゃ意味がない」 「本当に最高。ありがと」 軽くほっぺたにキスをすると、すぐに唇に返される。 「一生懸命仕事をした甲斐があったってもんだ」 「ん、そうだね」 「せっかく旅行に来たから、お前にくつろいで欲しかったんだ」 「……そっか」 夫婦だからかわかんないけど、お互い似たようなこと考えてんだな。 部屋は豪華なのに、本当に力が抜けるような不思議な空気感が溢れている。この部屋には、玄関で見たような、露骨な遊郭感がないせいかもしれない。 とはいえ、これが当時の様子を再現しているというのなら、遊郭というのはすごい施設だったに違いない。

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