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第42話
部屋にはテレビもない。とろ火のついた囲炉裏で揃ってぼんやりしていると、女将の通る声が響いた。
「失礼致します、お夕食をお持ちいたしました」
「あ、はぁい」
返事して前室の方に出ると、数人の板前風の男性がその後ろに並んでいて、御膳や食器を持っていた。ちょっとぎょっとする。
「板場の者で、お食事の席をご用意させていただきます。大変申し訳ございませんが、入室させていただきます」
「あ、はい、それは全然、お願いします」
じゃあ囲炉裏のそばにいたら邪魔になるかもしれない。
「飯の支度してくれるっていうから、ちょっとどいて待ってよう」
彼に手招きする。
「結構大規模な作業なのか?」
「わかんない、御膳置いてくだけだと思うけど」
それにしても大勢来たもんだとは思ったけど。
作業は囲炉裏の横の畳敷きの空間で行われた。続々と男が入ってくる。5、6人てところ。
「囲炉裏でお待ちいただいて大丈夫でございます」
女将が微笑む。作業の様子も眺めてほしいというような素振りにも見えた。
待っている間、風呂に入るほどの時間でもないし、ベッドでゴロゴロしているのもなんだし、またソファーでくつろぐというのもそんな気分にならないし、ということで、作業を眺めることにした。
彼はまた目を輝かせて、女将と板前たちの働きぶりを眺めていた。
俺もつられて眺めちゃったのは、まるでテントを立てるみたいに、何もなかった空間にあっという間に簡単なキッチンと食事席が出来上がったからだった。
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