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第44話
一本ウン十万という40年物の白ワインを食前酒に、軽く乾杯した。
向かい合わせの席のすぐ隣で、調理が始まる。その会席料理とやらを一から作るのかと思いきや、すぐに女将が一品目を出してくれた。
「先付でございます」
小鉢の中に入っていたのは白和えだった。
「地元の特産品であるほうれん草と人参を使った白和えでございます」
「へー、白和えとかしばらく食べてないなぁ」
「ハニー、これはなんの料理だ?」
「前菜だよ。豆腐と野菜のサラダみたいなものかな」
「ほう、豆腐は大好物だ!」
箸で掴みにくいって文句言ってたけど、食べ物としては嫌いじゃないんだそうだ。
「お口に合いますでしょうか、豆腐もお山の湧き水を利用して手作りしております」
何気なく彼の箸の進みを女将と一緒に見守ってしまう。一口食べた彼は、パッと目を輝かせた。
「なんだこれは、うまいじゃないか! 滑らかで上品な味がする。豆腐にこんな食べ方があったなんてなぁ」
「ふふ、お口にあったようで安心いたしました」
こいつ、だいぶ味覚が日本人寄りになって来てるなぁ。ハンバーガーばっかり食べてたから舌バカなんじゃないかと思ってたけど、さすが大富豪は下手な物ばかり食べているわけじゃないか。
「ハニー、今度うちでもこれを作ってくれないか、シラアエ」
「ここで食べるみたいなうまいもんは作れねぇよ」
そもそも白和えなんか作ったこともないし。
「大丈夫さ、お前のパン作りの腕があれば楽勝だろ? お前の料理の腕は確かだ」
残っていたワインを一気に飲み微笑む。つられて笑っちゃった。
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