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第53話
備品の高そうな石鹸をスポンジの上に泡だて、2人並んで体を洗った。頭も適当に洗うと、銭湯にいるのと変わりない感じすらしてくる。
「すげーいい匂いすんな、この石鹸」
花束を抱いているみたいな、嫌味のない濃厚な花の香りがする。さすが高級旅館。漂う湯気すら花の香りが混じるようだ。
「本当だ。お前を抱いたら花の香りがするだろうな」
体を洗いながら恥ずかしげもなく言う。バカじゃねぇのなんて適当に流してみたけど、開放感からかいたずら心が疼いてきた。
「洗ってやるよ」
立ち上がって、スポンジを背中に滑らせる。彼は軽く後ろに振り返って、ありがとうと微笑んだ。
「銭湯以来だな、背中を流してくれるのは」
「そうだっけ? 家でもやんなかった?」
「家ではないな」
「そうだったっけ?」
また適当に流して、いたずら作戦決行。
「じゃあ、せっかくだから、特別な洗い方してやろうかな」
なんて意味深に前フリして。彼が「特別?」と不思議そうに尋ね返してくるのも構わず、泡だらけの彼の背中にそっと自分の胸を押し付けた。彼の背中全体を洗うように、そのまま体を上下させる。
「っ、お?」
彼の背筋が少し伸びる。やっぱりちょっとびっくりしたみたいだけど、すぐに笑いながら息を吐いた。
「ハニー、これは本当に特別だな」
「ふふ、だろ?」
風俗そのまま体現してるみたいだけど、まぁこういう場だし、無礼講ということで。
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