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第63話

食後一休みしたところで、彼が中庭を見たいというので、散策して大丈夫なのか女将に確認してみた。 「ええ、ぜひご覧ください! お庭も当時のままを再現しておりますので」 俺たちが庭に興味を持ったことを好意的に感じているようだった。中庭だけでなく、裏山も旅館の土地であり、遊歩道を設けているそうで。もちろん浴衣で散策して構わないとのことだった。 「さすがに裏山は浴衣はやめとこう、虫に食われそうだから」 「たしかにそうだな、ハニーを虫にキズモノにされるわけにはいかないしな」 虫にまで嫉妬するとかどうなの。思いながらも口には出さない。 結局、中庭には浴衣のまま出た。大きな石の上に作られた下足スペースで、下駄に履き替える。下駄なんて、浴衣以上に身につけた記憶がない。 「日本のサンダルみたいなもん。昔はコレが靴がわりだったんだ」 揃えて置いて、履き方をレクチャーする。親指と人差し指の間に鼻緒を挟めると、痛いと言うかなと思ったけどそうでもなかった。痛いのは俺の方だった。 「おま、下駄履いたことねぇくせになんでそんなしゃんしゃん歩けんの?」 「普段から鍛えてるからじゃないか? ハニーは日本人だが随分歩きにくそうだな」 「うるせぇわ!」 ゆっくり歩いてくれるから、腕に捕まって支えにする。 「素晴らしい庭だな、ヨーロッパの方の庭とはまた違う」 彼は軽く何度も頷いていた。

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