63 / 148
第63話
食後一休みしたところで、彼が中庭を見たいというので、散策して大丈夫なのか女将に確認してみた。
「ええ、ぜひご覧ください! お庭も当時のままを再現しておりますので」
俺たちが庭に興味を持ったことを好意的に感じているようだった。中庭だけでなく、裏山も旅館の土地であり、遊歩道を設けているそうで。もちろん浴衣で散策して構わないとのことだった。
「さすがに裏山は浴衣はやめとこう、虫に食われそうだから」
「たしかにそうだな、ハニーを虫にキズモノにされるわけにはいかないしな」
虫にまで嫉妬するとかどうなの。思いながらも口には出さない。
結局、中庭には浴衣のまま出た。大きな石の上に作られた下足スペースで、下駄に履き替える。下駄なんて、浴衣以上に身につけた記憶がない。
「日本のサンダルみたいなもん。昔はコレが靴がわりだったんだ」
揃えて置いて、履き方をレクチャーする。親指と人差し指の間に鼻緒を挟めると、痛いと言うかなと思ったけどそうでもなかった。痛いのは俺の方だった。
「おま、下駄履いたことねぇくせになんでそんなしゃんしゃん歩けんの?」
「普段から鍛えてるからじゃないか? ハニーは日本人だが随分歩きにくそうだな」
「うるせぇわ!」
ゆっくり歩いてくれるから、腕に捕まって支えにする。
「素晴らしい庭だな、ヨーロッパの方の庭とはまた違う」
彼は軽く何度も頷いていた。
ともだちにシェアしよう!