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第65話

そのまま手を繋いで、庭を散策した。ちょっと散歩するのにちょうどいい広さで、寄り添いながら他愛のない話に終始する。 「今朝の朝食は本当に美味しかった」 「お茶漬け気に入ったの?」 「ああ、さっぱりしていていい」 「ふぅん、こってりしたのばっかり好きかと思ってたのに」 「お前の料理なら朝からステーキでも食えるぜ」 「はん、言ってろ」 不思議なもんで、バリバリの日本庭園に浴衣なのに、彼がここにいても違和感もなかった。 何も急ぐことがないまろやかな朝の景色を、彼と満喫できていることが嬉しい。 庭の奥の方は木造の橋のような渡り廊下になっていた。その廊下と旅館の壁の丁度ぶつかるあたりに、少し庭園の雰囲気とは不釣り合いな石を見た。 (なんだアレ) やけに目を引いた。膝丈くらいのが2つ並んでいる。よく見たらどちらもボコボコしていて古めかしくて、普通の石ではないことは明らかだった。爽やかな庭園に、文字通り一石を投じている。 「ハニー、どうした?」 俺があまりにも見つめすぎていたせいで、彼が不思議そうに首を傾げる。 「あ、いや、なんかあそこに石あるなと思ってさ」 指をさそうとしたけど、させずに握りこぶしを作ってしまった。そういうことをしちゃいけない雰囲気が漂っている。

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