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第67話

「まぁ、なんだかよくわからないからな」 幸い、彼の興味も落ち着いたらしい。踵を返すのにホッとする。 しかし、その背中を追いかける途中でもう一度石の方を見たとき、なぜかハッキリと石に彫られた古ぼけた文字が見えてしまったのだった。 慰霊碑 庭の片隅にそんな名の彫られた石が鎮座している。 途端にこの旅館キナ臭い存在に思えてきた。 「いやぁ、良い朝のひと時って感じだったな。日本の旅館は素晴らしいな」 彼は庭で光合成でもしてきたかのように、満足そうに微笑んでいる。俺は全然それどこではなくて、なんなら推理小説かミステリー小説の主人公みたいな気持ちだった。 (なんなんだ、アレ) ホームページすらない超高級旅館にある、慰霊碑と書かれた謎の石。 気になりすぎる。けれど、話を聞いていいのかいけないのかわからない。そんな代物を、なんで見つけてしまったのだろうか。 (いや、でもなぁ) そもそも隠すようなものなら、中庭なんかに置く必要はないだろう。遊郭の当時のままを移築したというこの建物で、わざわざ中庭という目につきやすい場所に慰霊碑なんて書いた石を置くだろうか。 再現しているというくらいだから、当時からあの慰霊碑と書かれた石があそこに置かれていた可能性もある。 けれど、それこそ遊郭の中庭なんて場所に慰霊碑を置く必要があるだろうか。

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