69 / 148

第69話

「え? あ、うん……」 なぜか戸惑って、曖昧に返事をした。 「やたら気にしているようだったから、不思議だと思ったんだ。日本ではああいうオブジェは何かの象徴なのか?」 彼の言い方は知的好奇心そのものという感じで、文化的な角度から尋ねてこられる。日本と海外のホラー映画の違いみたいなもんなのか、彼にはあの石の雰囲気から何かを感じるということがなかったようだ。 「うーん、俺にはなんだか、ちょっと気味悪いように感じてさ」 「気味悪い?」 「うん、なんかこう、ジメッとしててあんまり立ち入っちゃいけない感じっていうか」 「ふうん、俺には別になんとも感じなかったが」 「そうかー、日本人が感じる独特の雰囲気って感じなのかなぁ」 あまりに彼があっけらかんとしているので、本当に気にする必要はない気がしてくる。 「よほど気になるなら、本を見てみたらいいんじゃないか? 何かヒントがあるかもしれないぞ」 そんな時に彼が言ったその言葉が、思ったよりもスッと胸に入り込んできた。 「本……。本か、本な」 「ほら、階段のところにあったじゃないか、廊下にも本棚があったし、この旅館にはあちこちに本があるみたいだしな」 俺もちょうど本棚の本を思い浮かべていたところだ。とはいえなかなか敷居の高そうな古い本ばかりだったけど。

ともだちにシェアしよう!