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第70話

「オカミも見ていいって言っていたし、いいんじゃないか?」 「うーん、まぁなぁ」 初めから女将に聞いてしまえば話が早いんだろうけど、なんだかそれも面白くないし、アトラクションてことで、読書に答えを求めてもいいかもしれない。 あまり本を読むほうじゃないから、読むの遅いだろうけど。 「風呂上がったら、本見てみるかな」 ぽつっと呟くと、彼は持っていたお猪口を浴槽の縁において、俺を抱きしめてきた。 「ハニー、読書は俺の側でしてくれよ、寂しいから」 ほろ酔いなのか、いつもより口調がまったりしている。 「寂しい? お前ホントガキじゃねぇんだから」 「なんと言われてもいい、お前がそばに居ないと嫌なんだ」 なんでもストレートに話してくるのが、ちょっと可愛いし甘やかしたくなる。 「んー、わかった。じゃあ本借りて部屋で読むから」 「本当か? 絶対だぞ?」 「わかったって」 軽くキスをして宥める。のぼせても良くないから、そのまま風呂から上がってしまった。 再び浴衣に着替えると、羽織を羽織ってとりあえず階段のところの本棚に向かった。改めて向かい合った本棚は浅黒い赤色で、作り込まれたタンスような細かいデザインが彫られていた。 自慢じゃないが、学生の頃、図書館にもろくに寄り付かなかった俺である。しかも古めかしい本の数々。目の前の圧迫感たるや。

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