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第71話

見れば百科事典みたいな装丁の同じデザインの本がずらりと並んでいて、背表紙には旧字体でどこかの街の名前と市史と書かれている。 市史以外にも、同じようなデザインでなんとか大鑑とかなんとか記とか、いかにも学者が訪ねて来て読みそうなタイトルの本ばかりだった。自ら設定したアトラクションなのに、早くも頓挫しそうだ。 (でもなぁ) ここで折れたらマジでカッコ悪い。自分の中のなけなしのやる気を振り絞る。 何の気なしに手を伸ばしたのは、その中でも一番薄い、ひらがなのタイトルの本だった。 「し、す、の、お、た、ま、き?」 この期に及んでひらがなの題名とか。カッコ悪いかもしれないけどまぁいい。いきなり図鑑サイズの本読む気も起こらない。 パラパラとめくってみると、浮世絵みたいなイラストが入った絵本みたいだった。軍服みたいなのを着ている。 「ははっ、あいつこういうの好きかなぁ」 すぐ「サムライか!?」とか言いそう。想像しながら部屋に持ち帰る。 「ただいま」 川の流れる前室を通り囲炉裏の部屋にたどり着くと、彼は持参したノートパソコンを叩いていた。仕事が趣味の彼は、趣味に没頭していた。 「ハニー!お帰り、いい本はあったか?」 にっと笑って出迎えてくれる。

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