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第75話

彼が起きてから、本を返しがてら、再び本棚を眺めた。 俺だって日本人の端くれだ。外国人と暮らしてたって、多少は古い日本語わかりますわ。 なんて意味のわからないプライドを握りしめて向き合う。 飽きない程度にゆっくり眺めると、並んだ本の中に、目を引くものがいくつかあった。 「男、色、大鑑」 「稚児、之、草子」 なんだか不思議なタイトルの本ばかりだ。 (稚児ってあれか、昔の小坊主さんか) 即座にとんちの彼を思い出すけど、そういう本ではなさそうだ。 試しに稚児のなんとかとかいう本を開く。開いたらページが落ちそうなほど古い装丁をしている。 開けてびっくりした。 カラーでこそなかったけど、どのページを開いても、男同士でヤってる無修正の浮世絵みたいな絵がズラリと描かれていたからだった。 「はっ?」 思わず変な声が出た。同時に変な汗をかく。 なんでこんな本が超高級旅館にあるんだ? いや、もちろん、歴史的価値が高い一品なのだろうというのはよくわかるけれど、だとしてもあまりにも露骨に描かれすぎている絵が、この旅館とはあまりにも不釣り合いに見えた。 「え、あそっか、もともと遊郭だからか」 と一瞬納得はしたものの、すぐにいや、と思い返す。遊郭なら男女だろう。男同士でヤッてる本なんて必要ないハズ。 ますます混乱してきた。 とりあえずこの本は彼に見られたら興奮させてしまうかもしれないので、そっと閉じて本棚の隅っこに閉まった。

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