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第81話

「陰間茶屋?」 聞き慣れない言葉だった。遊郭の後にお茶屋さんをやってたってことだろうか。 ぽかんとしている俺たちを見て、女将は軽く頷く。 「お分かりにならなくて当然かと思います。遊郭より知られたものではないと思いますので。私もこの仕事を始めてから、存在を知りましたから」 なんだか含みのある言い方だった。 「陰間とは、平たく申しますと男娼ですね。つまり、男性が男性へ色を売るお店でございます」 「えっ?」 びっくりしてちょっと顔がこわばった。 「男が男に? 日本には昔からそんな店があったのか」 彼も驚いているようだ。 「左様でございます。現在は遊郭という存在の方が有名ですが、当時は同様にお店があったと言われています。明治時代になり、数は激減したそうですが」 「へぇ」 「奉公していたのは幼い子供から青少年まで多様だったようです。遊女と同じく、生活苦から売られて来た子供たちが多かったようですね」 知らない世界もあるものだと思いながら、遊郭と聞いた時と同じくらい生臭いものを感じる。 「遊郭当時の資料のようなものは、先の戦争で空襲に遭いほとんど消失してしまいまして、別の場所に保管していた陰間茶屋当時の資料がわずかに残っているのみです。それがこちらになります」 女将が改めて茶色い本を手に取った。

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