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第82話
「茶屋は一代で閉めたそうですが、その店主というのがとても聡明な人物だったそうで、売られて来た子供達を茶屋で働かせる一方で、勉学を教えたり商いを教えたりと、子供達の先の人生考えながら経営していたのだそうです」
女将が本を開く。筆で書かれた達筆な文字が、つらつらと書き連ねられている。
「当時の子供達の出生や年、売られた金額などが書かれています」
「読めないな」
身を乗り出した彼が文字を見つめるが、俺ですら読めないものが彼に読めるわけもない。
「幼い子供達には読み書きを、少し大きな子供達にはそろばんも教えていたそうです。勉強を教えたからといって金を取るわけでもなかったと。仕事に知識を生かそうと、男性同士の色恋に関する書籍を買い求めては読んでいたそうです」
即座に本棚の本を思い出した。あの変なタイトルの本は、その店主が集めてきたものということか。
「お陰で売上の方も良好で、引退した子供達も真っ当な勤め先をきちんと見つけ働くことができたと伺っております。引退しても、同じように夜の世界に身を投じる子供が多かった当時としては、とても珍しいことだったそうですね」
安易に水商売に走って抜け出せなくなるなんて話は現代でも多く聞くところだけど、当時なんか余計にそういう人が多かったことだろう。
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