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第83話
顔を上げた女将は、失礼と小さな声で言って一口お茶を飲んだ。
「なんだか一気に話したような気がしますわ、申し訳ありません、お聞き苦しいところはございませんでしたでしょうか?」
お茶目な女将は軽く咳払いし、喉を撫でながら尋ねてくる。
「あぁ、それは全然。つい聞き入っちゃいましたよ」
「そうでございますか、それならようございます」
旦那様は、と彼の方を見る。彼はウンウン頷いている。
「なるほど、面白いな。日本の歴史を紐解いている気分だ」
「すっげぇ局地的な日本の歴史だけどな」
「しかし、それがあの慰霊碑となんの関係が?」
彼が言うように、敏腕店主の話と慰霊碑が何も結びつきそうにない。
「あの慰霊碑は、その店主があそこへ置いたものなのでございます」
女将はまっすぐ俺たちの顔を見た。
「あえて、中庭という人目につきやすいところに置いたのには、理由がございました」
まるでその店主という人が、女将に乗り移ったかのように、まっすぐ。
ちょっと背筋が寒い気がして、何気なく彼に寄り添った。
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