83 / 148

第83話

顔を上げた女将は、失礼と小さな声で言って一口お茶を飲んだ。 「なんだか一気に話したような気がしますわ、申し訳ありません、お聞き苦しいところはございませんでしたでしょうか?」 お茶目な女将は軽く咳払いし、喉を撫でながら尋ねてくる。 「あぁ、それは全然。つい聞き入っちゃいましたよ」 「そうでございますか、それならようございます」 旦那様は、と彼の方を見る。彼はウンウン頷いている。 「なるほど、面白いな。日本の歴史を紐解いている気分だ」 「すっげぇ局地的な日本の歴史だけどな」 「しかし、それがあの慰霊碑となんの関係が?」 彼が言うように、敏腕店主の話と慰霊碑が何も結びつきそうにない。 「あの慰霊碑は、その店主があそこへ置いたものなのでございます」 女将はまっすぐ俺たちの顔を見た。 「あえて、中庭という人目につきやすいところに置いたのには、理由がございました」 まるでその店主という人が、女将に乗り移ったかのように、まっすぐ。 ちょっと背筋が寒い気がして、何気なく彼に寄り添った。

ともだちにシェアしよう!