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第84話

「こちらをご覧ください」 女将が桐の箱をさらに探る。底の方からまた一冊茶色い本が出てきた。 「こちらは店主が書いていた日記のようなものです。当時の茶屋に関することが書かれております。現在はこちらと、別に保管しているものが数冊あるのみなのですが、本棚がいっぱいになるほど何冊も書かれていたそうございます」 ゆっくりとページを捲る。また達筆すぎる文字が踊っている。 「いや、普通にすごい資料です、ね」 場を和ませようと何となく呟くと、彼が何となく頷きながら、本当にその通りだと言う。 「まさに歴史的な資料だな。これは博物館などに保管されていてもおかしくないだろう」 そんな奥ゆかしい旅館の過去に、一体何があったと言うのか。 背筋も寒いままに、話の続きに耳を傾ける。彼は俺の雰囲気を察してか、そっと腰に腕を回してくる。自然と体が密着してホッとした。 女将は俺たちの様子を一瞥して、軽く微笑んだ。 「この資料の中に、店主が特に熱心に記録していた人物が書かれておりまして」 少しずつページをめくりながら、確かめるように何か所か指を指す。 「何ページにもわたって名前が書かれているほどです」 聞けば、別に保管している資料にも書かれているという。

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