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第87話

「おうちが事業に失敗して破産したそうで、借金のカタという形で売られたのだそうでございます。着の身着のままで売られてきたために、身なりはみすぼらしく、髪などは櫛が通らないほど乱れていたのだそうです。性格も大人しく、目立たないタイプだったと」 その容姿から売れっ子の陰間になるなんて、シンデレラみたいだとしか思えなかった。しかも壮絶な美人らしいとなればなおさら。頭に思い描くけど、どうしても男じゃなくて美人な女しか浮かんでこない。 「年齢もその通りだったため結果的に雑用係として雇われたようですが、その性格に見た目のみすぼらしさが手伝って話し相手もなく、孤独に過ごしていたようです。あるときその美しさが明るみになり、陰間として働くことになったと」 「そんなことまで書いてあるんですね」 「はい、こちらの資料ではなく、保管している方の資料に書かれておりまして」 「へぇ」 「店主はよほど気にかけていたようですね。特に陰間になる前後の記録が事細かに書かれておりまして、本当に小説でも読んでいるような気分になりました」 女将も仕事とはいえ、こうした歴史ある建物の今昔を覚えるのも大変だろうな。 俺の思いとは裏腹に、彼は深刻そうな顔をして、軽く息を飲んでいた。

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