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第88話
「過酷な過去じゃないか、そこから陰間として働くというのもつらかったんじゃないのか?」
まるで目の前に本人がいるかのような口ぶりだった。
「そうですね……。その方が実際にどのように感じていたのかはわかりかねますが、売られてくる前は普通の学生だったそうです。雑用係も陰間も、それまでの生活とは全く違う世界だったことは間違いないと思います」
「oh……」
彼がまた俺を抱き寄せる。
「ちょ、おい」
苦しくて押しのけようとするけど、ビクともしない。
「可愛そうにな、つらかっただろう……」
すっかりしゅんとしてしまった。あまりにも寂しそうで、無理やり逃れようとするのも気の毒になってくる。
それはそうと本題を忘れかけていた。そういえばまだ慰霊碑の謎にはたどり着いていない。
「それで、慰霊碑っていうのは、一体?」
しんみりした空気を、探り探り尋ねる。この流れからするにその彼のための慰霊碑なんだろうけど、オチまできちんと聞かないとなんだか気が済まなかった。
女将は再びお茶を一口飲み、軽く咳払いをした。
「きっと店主が事細かに記録を残したのは、慰霊碑につなげるためだったのかもしれません」
再び俺たちを見た視線は、見たこともない店主を思わせる強さと冷静さを漂わせていた。
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